三遊亭圓生

三遊亭 圓生

「三遊亭 圓生」（さんゆうてい えんしょう）は、落語界において代々受け継がれる由緒ある名跡の一つです。特に、今日「三遊亭」という亭号を名乗る数多くの落語家たちの源流であり、三遊派と呼ばれる一門の開祖にして本家筋にあたる、極めて重い大名跡として位置づけられています。江戸・東京の落語史において、この名跡を継いだ歴代の落語家たちは、それぞれ重要な役割を果たしてきました。表記としては、新字体の「円生」が用いられることもあります。

初代から六代目まで、歴史の中で多くの名人たちがこの圓生の名を継承してきました。

初代三遊亭圓生
二代目三遊亭圓生
三代目三遊亭圓生
四代目三遊亭圓生
五代目三遊亭圓生
六代目三遊亭圓生

二代目襲名を巡る争い

歴史上、この名跡を巡る争いは過去にも起こっています。特に二代目圓生の名跡は、初代立花家圓蔵と初代三遊亭圓太の間で激しく争われました。この争いは結局、圓蔵が勝利し、彼が二代目圓生を継承することとなります。一方、名跡を得られなかった圓太は、その悔しさからか、「新しい圓生」という意味合いを込めて自らを「志ん生」と名乗ることを決意しました。さらに、彼は古き落語も新しい落語も両方手掛けるという気概から、亭号を「古今亭」と改めました。これが初代古今亭志ん生の誕生であり、現代まで続く古今亭一門の出発点となったのです。一つの名跡争いが、新たな名跡と一門を生み出すきっかけとなった歴史的な出来事と言えるでしょう。

七代目襲名を巡る近年の騒動

六代目圓生が1979年に亡くなった後、この大名跡は空席となり、六代目の未亡人である山崎はな氏や関係者の連名により「止め名」、すなわち今後襲名させない名跡とされていました。しかし、六代目の三十三回忌を間近に控えた2008年頃、六代目の総領弟子であった五代目三遊亭圓楽師匠が、自身の弟子である三遊亭鳳楽師匠に七代目圓生を襲名させる意向を表明したことから、事態が大きく動き始めます。これに対し、六代目の直弟子であった三遊亭圓丈師匠、そして六代目門下の預かり弟子であった六代目三遊亭圓窓師匠も、それぞれが七代目襲名に名乗りを上げました。これは、止め名とした当事者の一人でありながら、独断で鳳楽師匠の襲名を進めようとした五代目圓楽師匠と、他の直弟子たちとの間の確執が背景にあったとされています。

五代目圓楽師匠はかねてより、自身の師匠にあたる圓生の名跡を鳳楽師匠に継がせたいと公言していました。2009年春、病状が悪化した五代目圓楽師匠は、鳳楽師匠ら円楽一門会の幹部を集め、六代目圓生三十三回忌である2011年を目途とした七代目襲名計画を具体的に話し合います。同年10月に五代目圓楽師匠は亡くなりますが、鳳楽師匠は「お別れの会」の場で、六代目の孫からの賛意を得たことを明らかにし、改めて関係者への挨拶回りを経て襲名を目指す意向を再表明しました。

これに対し、圓丈師匠は2010年2月発売の雑誌での対談で、「名跡は孫弟子ではなく圓生の直弟子が継ぐべきだ」と公に異を唱え、自らも襲馬に立候補しました。さらに、芸の上での直接対決を鳳楽師匠に提案。これを受け、同年3月には圓丈師匠、鳳楽師匠らの共演による「円生争奪杯」という興行が開催されましたが、この時点では結論は出ませんでした。

同年5月には、圓窓師匠も落語協会に対し七代目圓生襲名の意向を報告し、遺族との話し合いを進めていることを明らかにしました。一時は新聞報道で襲名発表の可能性が示唆されるほどでした。しかしその後、圓窓師匠は三十三回忌を機に圓生の名が「留名」として六代目の長男によって管理されることになったと報告しています。また、かつて止め名に署名した関係者の一人からは、止め名には「粗悪な圓生誕生の抑止効果」はあっても、「拘束力はない」との見解も示されています。

結局、この七代目襲名騒動は、いずれの候補者も名跡を継承することなく収束しました。2015年9月には、名乗りを上げていた圓窓師匠、圓丈師匠、鳳楽師匠の三氏が、当面は襲名する意思がないことを表明し、七代目の人選は白紙に戻されたのです。その後、圓丈師匠は2021年11月に、圓窓師匠は2022年9月に相次いで亡くなりました。また、鳳楽師匠も2023年以降、高座から事実上の引退状態となっています。

六代目三遊亭円楽師匠の意欲

七代目襲名が宙に浮く中、2019年には鳳楽師匠の弟弟子にあたる六代目三遊亭円楽（本名：會泰通）師匠が、著書などで七代目圓生襲名への強い意欲を表明しました。彼は、40年以上空席となっている圓生の名を次世代へつなぐための「ショートリリーフ」として、自らが一時的に名跡を継ぐという考えを持っていました。その後も、円楽師匠や彼のマネージャーは水面下で襲名に向けた準備を進めていることを度々語っていました。2022年1月に脳梗塞で倒れた後も、「寝たきりでも襲名する」と周囲に語るなど、その意志は非常に強固なものでしたが、残念ながら襲名発表に至る前の2022年9月30日に死去しました。彼の圓生襲名の意志とその準備については、没後に親交のあった春風亭小朝師匠が追悼文で証言するなど、広く知られるところとなりました。また、円楽師匠が生前に出家した際の僧名や、死去した際の戒名に「圓生」の文字が使われていることからも、彼がこの名跡に特別な思いを抱いていたことが窺えます。

六代目円楽師匠の没後、2022年10月の追悼会では、三遊亭好楽師匠が円楽一門会の席上で、圓生の名跡も一門の者が必ず継ぐ、という趣旨の発言をしています。その後、好楽師匠の長男である三遊亭王楽氏が七代目三遊亭円楽を襲名するなど、一門内での名跡継承が進む動きも見られますが、極めて重い大名跡である「三遊亭 圓生」の七代目がいつ、誰によって継がれることになるのか、現在は未だ定まっていません。六代目の系譜から、将来にわたって名跡にふさわしいと目される人材が現れる時が来るまで、その時は訪れないのかもしれません。

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関連項目

三遊亭圓朝
三遊亭円楽
* 古今亭志ん生

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