三遊亭歌橘 (3代目)

三代目 三遊亭 歌橘

三代目 三遊亭 歌橘（さんゆうてい かきつ）は、1976年6月24日生まれ、落語協会に所属する真打の落語家です。本名は恩田 龍也。舞台への登場を告げる出囃子には「八木節」を使用しています。

故郷と落語への道

栃木県足利市八幡町に生まれ育った歌橘は、同町に在住していた書家、相田みつを氏に幼少期から目をかけられ、可愛がられたという記録が残されています。これは、祖父が相田氏と親しい友人であった縁によるものです。また、祖母が民謡歌手の早坂光枝氏に師事していた影響で、物心つく頃から民謡と三味線に親しむ機会に恵まれ、手ほどきを受けました。幼い頃に両親が別れ、それぞれ新たな道を歩んだため、以降は祖父母が親代わりとなって育てられました。

中学3年生の時、後に師となる三代目三遊亭圓歌の落語に感銘を受け、弟子入りを志願。入門を許され、中学校を卒業すると同時に師匠の家に住み込む内弟子となりました。前座名は「三遊亭歌いち」を名乗ります。1995年には葛生高等学校（現・青藍泰斗高等学校）を卒業しています。

芸歴の歩みと真打昇進

1994年9月に正式に三代目三遊亭圓歌に入門し、「歌いち」としての道をスタートさせました。1999年5月1日には、三遊亭歌彦、春風亭栄助、古今亭志ん太、古今亭菊可といった仲間たちと共に二ツ目に昇進。この機会に名を「三遊亭あし歌」と改めました。そして、2008年9月21日、四代目三遊亭歌奴、古今亭菊太楼、春風亭百栄、三代目古今亭志ん丸と共に真打に昇進。同時に、三代目となる「三遊亭歌橘」の名跡を襲名しました。この真打昇進は、栃木県出身の落語家としては初の快挙となりました。

これまでの主な受賞歴としては、二ツ目時代に輝かしい成績を残しています。2006年6月1日には第7回日本橋演芸大賞を受賞。翌2007年には、1月27日に第6回さがみはら若手落語家選手権審査員特別賞、2月11日に第4回伝統芸能祭りグランドチャンピオン大会、5月6日には第1回落語一番勝負グランプリ新作落語部門を受賞するなど、実力を高く評価されました。

人物像と多岐にわたる活動

歌橘は多趣味であり、温泉巡りや釣りをはじめ、大相撲やプロレス観戦、映画鑑賞、読書、さらに料理や掃除にも親しむという多彩な一面を持っています。故郷の足利市観光大使や、とちぎ未来大使、あしかが輝き大使も務め、地域のPRにも貢献しています。親しみを込めて「カッキー」や「かきつっち」などと呼ばれる他、見た目から「落語界の美肌王子」の愛称もあります。同じ時期に二ツ目に昇進した仲間には、二代目林家木久蔵や漫才師のタカアンドトシなどがいます。

数々のエピソード

修行時代の苦闘と克服

入門後の修行時代には、特に地元栃木の訛りの矯正に大変苦労しました。落語は本来、江戸で生まれ、江戸っ子に向けて演じられる芸であり、噺家が訛るのは芸として許されない慣習があるからです。自身では訛りがないと思っていたため、何が問題なのかを理解するのにかなりの時間を要したと語っています。師匠である江戸っ子・圓歌師匠から、言葉のイントネーションをその都度細かく指導され、内弟子時代はあえて地元の人間との連絡を絶つなど、血の滲むような努力を重ねました。その結果、威勢の良い江戸っ子の啖呵が聞ける『大工調べ』や『三方一両損』、『たがや』、『宿屋の仇討ち』といった噺を演じられるまで、見事に訛りを克服しました。

順風満帆からの転落、そして師の恩義

2000年、フジテレビのプロデューサーに見出され、テレビ番組のレギュラーを獲得するなど、芸人として順調な滑り出しを見せたかに思えました。しかし、内弟子生活から解放された反動か、酒に溺れるようになり、仕事に穴を開けることも少なくありませんでした。周囲から度重なる忠告を受け、ついには仕事を干される寸前の状態まで追い込まれますが、最後まで見捨てずに支えてくれた師匠・圓歌への深い感謝を語り、「師匠の弟子でなければ今の自分は存在しない」と述懐しています。

仕事のない時期には、武蔵川部屋の和歌乃山洋関（現在の山分親方）の付き人として生計を立てていた縁もあり、角界関係者に友人が多いといいます。和歌山関が糖尿病を患っていたため、付き人の主な役目は酒を飲むことだったといい、相撲取りをも酔い潰すほどの大酒豪であったというエピソードを持つほどです。

『ペケ×ポン』での再起と反響

約10年のブランクを経て、2010年5月、フジテレビ系のバラエティ番組『ペケ×ポン』で再びテレビ出演を果たしました。この話があった時、すでに真打に昇進しており、落語の高座だけで十分な収入を得て生活できていたため、「今さらテレビに出る必要があるのか？」と真剣に悩んだと振り返ります。しかし、長年自身を見守ってくれていた映像作家のかわなかのぶひろ氏から、「このまま落語マニアにだけ評価される道を選ぶか、それとも全国的な人気を得て独演会を満席にできる噺家を目指すか？」と問われたこと、そして真打昇進時に目標として掲げた「寄席芸人」でありながら、現実には寄席への出演機会に恵まっていなかった状況も相まって、「こうなったら売れるしかない！」と番組出演を決意しました。

『ペケ×ポン』内の人気コーナー「ペケポン川柳」に出演するも、極度の緊張からなかなか正解できず、レギュラー陣の「川柳四天王」から手厳しく弄られました。さらに、童顔であることから「かきつっち」や「小4」と呼ばれ、絶対正解しないであろう安心感から「小4保険」とまで揶揄されるようになりました。しまいには、歌橘がその場にいない時でも、川柳やなぞかけに答えられない人を指して「かきつ」と呼ぶほどになり、答えられない人の代名詞的な存在となってしまったほどです。しかし、後に初めて正解を言い当てた際には、感極まって思わず涙を見せ、共演者の石坂浩二氏をも感動させたという一幕もありました。だが、解答権が回ってこない時に「分かった！」と声高に言い続けたため、レギュラー陣から「嘘だろ」と疑われ、分かっていないのに分かったふりをする人のことも「かきつ」と呼ぶようにまでなりました。また、タカアンドトシのタカとの悪口の言い合いも、番組の名物として定着しました。

『ペケ×ポン』で見せるポンコツぶりに対して、周囲からは「落語家の品格を損なう行為だ」といった厳しい意見も聞かれました。しかし、毒蝮三太夫氏は「現在、若手落語家がなかなかマスメディアに進出できない状況の中、二世でもなく、叩き上げの噺家がゴールデンタイムの番組に出演できたことをこそ評価すべきだ」と擁護し、彼にエールを送っています。

所属事務所の変遷

『ペケ×ポン』への出演をきっかけに、歌橘のスケジュールは一気に多忙を極めることになりました。それまで所属していた師匠・圓歌の事務所は、実質的に圓歌師匠夫妻が電話番などをしていたため、「なぜ私が弟子のスケジュール管理をしなければならないのか！早くよそへ行け！」と師匠から言われたことがきっかけで、半ば追い出されるような形で事務所を退所。しばらくの間はフリーランスで活動していましたが、『ペケ×ポン』のプロデューサーから「やはり事務所に入った方が良い」と勧められ、ひとまずフジテレビ系列の共同テレビジョンに所属することになりました。共同テレビジョンはそれまでアナウンサーのマネジメントのみを行っていましたが、歌橘の所属を機に新たにタレント部門（マネージメント室）が創設されたといいます。しかし、当時の山田良明社長の退任と同時にマネージメント室は閉鎖され、歌橘もその後、共同テレビジョンを退所しています。

母親との別れと人生観の変化

2015年8月、小学校1年生の頃に姿を消した母親と数十年ぶりに再会を果たす。しかし、そのわずか1ヶ月後、母親は末期の（ステージAと診断された）子宮頸がんで倒れてしまいます。医師からは余命3ヶ月と宣告されましたが、そこから1年半を生き、亡くなりました。身寄りがなかった母親を、歌橘が最後まで看取ったといいます。皮肉にも、母親が息を引き取ったのは、自身が独演会を開いている最中の出来事だったといい、「どこまでも子供に迷惑をかける母親だ」と語っています。

保険に加入していなかった母親の治療費や看取りにかかった費用を工面するため、様々な方面から約800万円もの借金を背負うこととなりました。その返済に追われ、自身の家賃や電気・ガス・水道といった公共料金、税金まで滞納するほど生活は困窮を極め、何度も死を考えるほどの苦境に立たされたといいます。そんな極限の苦しみの中で耳にした落語に、歌橘は救いを見出します。落語の登場人物たちが逆境の中でも懸命に生きる姿に励まされ、「自分もまた、同じように苦労している人々の心を支え、助けられるような落語家を目指そう」と新たな目標を持つことができました。母親の死を機に、自身の生活スタイルを大きく変え、ミニマリストとなりました。その理由は、遺品整理のために母親が住んでいた物に溢れたアパートを片付ける中で、「人間は死んだら何も持っていくことができない」という真理を悟ったからだといいます。

グラビアアイドルの手島優は、中学校の後輩にあたり、お互いの祖父母同士が友人関係という縁があります。

海を渡る公演

2007年、二ツ目「あし歌」時代のこと。カリフォルニア在住の日系一世、ユアサ・アキラ氏が三遊亭圓歌師匠の大ファンで、インターネットで師匠を検索した際に弟子の歌橘（当時あし歌）のホームページにたどり着き、メールでの交流が始まりました。ユアサ氏の「死ぬ前に、もう一度だけ生の落語を聴きたい」という切なる願いを聞き、歌橘は自身の飛行機代や滞在費を全て自費で賄い、単身でアメリカへ渡りました。この渡米には、当時自身が芸の行き詰まりを感じ、深く悩んでいたことも関係しているといいます。

当初はユアサ氏の住む一カ所での落語会を予定していましたが、歌橘渡米の噂を聞きつけた各地の日系人コミュニティから出演依頼が殺到。結果的にサンフランシスコ、シリコンバレー、ロサンゼルスなど、アメリカ西海岸の主要都市で計30カ所もの公演を行うこととなりました。事務所などの後ろ盾なしに、座布団と緋毛氈だけを携えて一人アメリカへ乗り込んだその姿は、異国で苦労を重ねてきた在米日系人たちの若き日の姿と重なり、現地のメディアでも大きく取り上げられ、大きな感動を呼びました（『RAKUGO IN CALIFORNIA '2007』）。

真打昇進後の2010年5月には、前回の公演に感銘を受けた各地の日系人コミュニティが会費を募り、「三代目三遊亭歌橘を呼ぶ会」を結成。再び歌橘を招聘します。今回は十分な予算が集まったことで、ゲストとして津軽三味線漫談家の太田家元九郎を同行させ、計15公演を行いました（『三遊亭歌橘独演会 in CALIFORNIA』）。この時のロサンゼルスでの新聞インタビューでは、「ゆくゆくは語学留学もしたい」と語るなど、海外への関心の高さも示しています。

メディアでの活動

テレビ、ラジオ、連載など、多岐にわたるメディアでも活動しています。NHK-BSの特選会、フジテレビ『ペケ×ポン』のレギュラー出演の他、日本テレビ『踊る！さんま御殿‼』、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで！！』などにも出演。とちぎテレビではMCを務めた経験もあります。ラジオではTBSラジオ、文化放送など全国ネットから、栃木放送、FM TAROなど地元の局まで幅広く出演し、パーソナリティも務めました。また、雑誌やフリーペーパーでの連載や、相撲関連のインタビュー記事の執筆なども行っています。これらの活動を通じて、落語のみならず様々な分野でその存在感を示しています。

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