三部作 (プッチーニ)

ジャコモ・プッチーニの三部作：『外套』『修道女アンジェリカ』『ジャンニ・スキッキ』

ジャコモ・プッチーニの三部作とは、3つの一幕物オペラ、『外套』、『修道女アンジェリカ』、『ジャンニ・スキッキ』を連続して上演する形式のオペラ作品です。1918年12月14日にニューヨークのメトロポリタン歌劇場で初演されました。プッチーニ自身は、この3作品を常にこの順番で上演することを意図していましたが、今日では各作品が単独で、あるいは他の作曲家の短編オペラと組み合わせて上演されることが一般的です。

三部作の成立と構成

プッチーニが「三部作」の構想を抱いた時期については諸説あります。1900年頃には、複数の作品を組み合わせて上演するというアイデアがあったとされています。1904年にはマクシム・ゴーリキーの作品に興味を持ち、そのうち3作品をオペラ化しようとしましたが、題材が見つからず実現には至りませんでした。また、プッチーニの楽譜を出版していたリコルディ社の反対もあり、この構想は一時頓挫しました。

1912年にリコルディ社の社長が亡くなった後、プッチーニは再びこの構想に取り組み始めます。パリで観劇した舞台劇『ラ・ウプランド（外套）』をきっかけに、最終的に『外套』、『修道女アンジェリカ』、『ジャンニ・スキッキ』という構成に落ち着きました。

三部作の構成に関する考察

この三部作の構成には、いくつかの解釈があります。

『神曲』との関連性: 『外套』は暗く絶望的な地獄、『修道女アンジェリカ』は贖罪の煉獄、『ジャンニ・スキッキ』はユーモラスな天国、というように、ダンテの『神曲』になぞらえる解釈があります。しかし、『ジャンニ・スキッキ』の人間的なユーモアは、天国的な歓喜とは異なるため、この解釈はやや牽強付会であるという批判もあります。
『ホフマン物語』からの影響: オッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』は、主人公が3人の女性と恋をする物語ですが、この作品から3つの物語を同時に上演するというアイデアを得たという説があります。しかし、『ホフマン物語』は同一人物による物語であるのに対し、三部作はそれぞれ異なる物語であり、類似性は低いという意見もあります。
グラン・ギニョール劇場: プッチーニが『外套』をオペラ化するきっかけとなったパリのグラン・ギニョール劇場では、短編演劇を3本立てで上演することが多く、この影響を受けたという説もあります。
劇場効果: プッチーニ自身が、「観客を惹きつけ、驚かせ、感動させ、そして笑わせる」ことが劇場での成功の秘訣だと語っており、三部作はまさにこの順番で構成されているという解釈もあります。『外套』で観客を惹きつけ、『修道女アンジェリカ』で感動させ、『ジャンニ・スキッキ』で笑わせるという意図があったと考えられます。

名称の由来

プッチーニは、この三部作を「Il trittico」（三幅対）と呼んでいました。これは、宗教画などで見られる三枚連なった絵画や彫刻を意味します。この名称は、プッチーニ邸で友人画家たちとの雑談中に考案されたという逸話があります。プッチーニが辞書を片手に「三」に関連する言葉を探していた際、画家の一人が「trittico」を提案したとされています。

初演と評価

プッチーニは、『外套』を1916年11月、『修道女アンジェリカ』を1917年9月、『ジャンニ・スキッキ』を1918年2月に完成させました。初演は1918年12月14日、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で行われました。

初演での評価は、『外套』はヴェリズモ・オペラの亜流との評価、『修道女アンジェリカ』は失敗作、『ジャンニ・スキッキ』は大絶賛というものでした。イタリア初演でも『ジャンニ・スキッキ』は高評価でしたが、『外套』は評価が低く、『アンジェリカ』はまずまずの評価でした。

三部作の「解体」

プッチーニ自身は『アンジェリカ』を非常に愛していましたが、この作品は三部作の中で最初に演奏されなくなりました。1920年のロンドン公演では、2日目から『アンジェリカ』が上演されなくなり、『外套』と『スキッキ』のみが演奏されました。この解体は、以下のような理由によるものと考えられます。

『アンジェリカ』が「弱い」と評価されたこと
3作品を上演すると時間が長くなり、上演コストがかさむこと
* 女声のみの出演であるため、上演機会が限られること

各作品は、単独で、または他の短編オペラと組み合わせて上演されるようになりました。出版された楽譜にも「三部作」という表記はなく、あくまで3つの個別の作品として扱われています。これは、各作品の単独上演を可能にし、結果としてリコルディ社の収益を増大させるための戦略だったと考えられます。

楽器編成と上演時間

3作品ともほぼ同一の3管編成で、ピッコロ、フルート、オーボエ、イングリッシュホルン、クラリネット、バス・クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、ティンパニ、打楽器、ハープ、弦楽器などが使われています。

上演時間は、3作品合わせて約2時間半です（各幕約50分）。

編曲

アメリカのピアニスト、イヴァ・ミカショフが「三部作幻想」という、三部作の名場面をピアノ独奏用に編曲しています。

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