ジャンニ・スキッキ

オペラ『ジャンニ・スキッキ』解説

作品概要

『ジャンニ・スキッキ』（Gianni Schicchi）は、ジャコモ・プッチーニが作曲した全1幕のオペラです。この作品は、プッチーニの他の作品とは異なり、唯一の喜劇オペラとして知られています。物語は、中年男ジャンニ・スキッキが、大富豪の遺産を巡る親戚間の騒動と、若い男女の恋を見事に解決する様子をコミカルに描いています。

このオペラは、傾向の異なる3つの1幕物オペラを連続して上演する「三部作」の最終作として、1918年 12月14日にニューヨークのメトロポリタン歌劇場で初演されました。プッチーニは次作の『トゥーランドット』を未完のまま終えたため、『ジャンニ・スキッキ』は彼が完成させた最後のオペラ作品となりました。

制作の背景

物語の題材は、ダンテの『神曲』地獄篇第30歌から採られています。ただし、『神曲』の中でジャンニ・スキッキの名前が登場するのはごくわずかです。物語の底本となったのは、14世紀の無名のフィレンツェ人が書いたとされる「ジャンニ・スキッキとは何者で、何をしたか」という解説文であると考えられています。この解説文は、1866年に文献学者のピエトロ・ファンファーニが編纂した『神曲』のある版に「付録」として添えられていました。

台本作家のジョヴァッキーノ・フォルツァーノとプッチーニは、直接会って相談を重ねていたため、どちらがこの題材を提案したのかははっきりしていません。しかし、1917年6月頃にはプッチーニが『ジャンニ・スキッキ』の台本を受け取っていたと考えられています。プッチーニは、当時作曲中だった『修道女アンジェリカ』を一時中断し、このオペラの作曲に没頭しました。数ヶ月で骨格部分を完成させ、1918年2月3日にオーケストレーションを含めた全曲を完成させました。

主な登場人物

ジャンニ・スキッキ（バリトン）：フィレンツェ郊外に住む田舎者だが、法律に詳しく、物真似上手で機転が利く50歳の男。
ラウレッタ（ソプラノ）：ジャンニ・スキッキの娘で21歳。
リヌッチョ（テノール）：大富豪ブオーゾ・ドナーティの甥で、ラウレッタの恋人である24歳。
その他：ブオーゾの親戚一同、医者、公証人、証人など。

演奏時間

約50分

楽器編成

ピッコロ、フルート2、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、バストロンボーン、ティンパニ（1人）、トライアングル、大太鼓、シンバル、グロッケンシュピール、チェレスタ、ハープ、弦5部。
バンダとして、低い教会用の鐘。

あらすじ

物語は、1299年9月1日、フィレンツェの大富豪ブオーゾ・ドナーティの邸宅で始まります。ブオーゾが亡くなったばかりの寝室で、親戚一同は悲しむふりをしていますが、皆の関心は遺産相続にあります。噂では、ブオーゾは全財産を修道院に寄付すると言われており、親戚たちはそれを恐れています。

遺言状を探す中で、リヌッチョがそれを見つけます。彼は、遺言状の内容が皆の期待通りなら、ラウレッタとの結婚を認めて欲しいと要求し、親戚たちは同意します。しかし、遺言状を開封すると、全財産が修道院に寄付されるという内容であり、親戚一同は落胆します。

困った親戚たちは、ラウレッタの父であるジャンニ・スキッキに助けを求めます。スキッキは初めは協力を拒みますが、娘のラウレッタが結婚できなければ自殺すると脅すため、遺産を取り戻すための計画を立てます。

スキッキは、ブオーゾの死を知る者が他にいないことを確認し、医者を偽の声で追い返した後、公証人を呼び、ブオーゾに成り済まして遺言を口述すると提案します。親戚たちはスキッキの変装を手伝いますが、皆が自分に有利なように遺産を分配して欲しいと頼みます。スキッキは、遺言を改竄した者は追放されると警告し、秘密を守るように念を押します。

公証人が到着し、スキッキはブオーゾに成り済まして遺言を口述します。親戚たちの希望通りに遺産を分配すると見せかけ、最後に、最も価値のある製粉所とロバ、そして邸宅を自分に与えるように遺言します。親戚たちはスキッキを罵りますが、彼は彼らを追い出します。

スキッキがバルコニーを開けると、そこにはラウレッタとリヌッチョが愛を語り合っています。スキッキは二人を祝福し、観客に向かって、この悪事を働いたことで地獄行きになるだろうが、もし楽しんでもらえたなら情状酌量を願うと語り、幕が閉じられます。

著名なアリア

「フィレンツェは花咲く木のように」（Firenze è come un albero fiorito）：リヌッチョのアリア。フィレンツェの美しい風景を歌い上げています。
「私のお父さん」（O mio babbino caro）：ラウレッタのアリア。単独でコンサートやリサイタルでもよく歌われます。映画『眺めのいい部屋』の主題歌としても有名です。

これらのアリアは、どちらもフィレンツェとその周辺の観光案内のような趣があり、オペラを彩る美しい音楽です。

初演とその評価、各地での再演

『ジャンニ・スキッキ』は、1918年 12月14日にニューヨークのメトロポリタン歌劇場で初演され、各紙で絶賛されました。その後、1919年1月11日にはローマのコスタンツィ劇場でイタリア初演が行われ、ここでも大成功を収めました。

当初は「三部作」の一部として上演されましたが、後に単独で、または他の作品と組み合わせて上演されるようになり、現在では世界中で愛される作品となっています。

日本では、1954年4月29日に藤原歌劇団青年グループによって日本語訳詞・ピアノ伴奏による公演が行われました。その後、1957年には「三部作」として初の全曲上演が行われました。