上原直彦

上原 直彦（うえはら なおひこ）氏は、1938年10月23日に那覇市垣花に生まれ、沖縄の放送界および文化振興において多大な功績を残した人物です。石川高等学校を卒業後、社会部の記者として琉球新報社に入社。社会情勢に関心を寄せ、1959年に発生した宮森小学校への米軍機墜落事故では、後にルポライターとなる森口豁氏とともに取材活動にあたりました。

同年、琉球放送（RBC）に移籍。キャリアの初期は報道部に在籍しましたが、やがてラジオ制作部へと移り、その後の活動の中心となります。特に、1961年にスタートしたラジオ番組「民謡で今日拝なびら」には、番組立ち上げのプロデューサーとして深く関わりました。番組が軌道に乗ると、自らマイクの前に立ち、パーソナリティとしても活躍。温厚で親しみやすい語り口で、半世紀以上にわたり多くのリスナーに愛される長寿番組へと育て上げました。琉球放送では、ラジオ局制作部専門職部長、ラジオ局次長、そして役員待遇の専任局長といった要職を歴任しましたが、1998年に退職した後も、長年にわたり「民謡で今日拝なびら」のパーソナリティを続け、まさに沖縄の「声」として親しまれました。元部下にはアナウンサーの宮城麻里子氏がいます。

上原氏の活動は放送の領域に留まりません。沖縄の民謡をはじめとする伝統芸能や文化への造詣は極めて深く、その普及・振興に情熱を注ぎました。特に1960年代から70年代にかけては、ジャーナリストの竹中労氏と共に、沖縄を代表する民謡歌手、嘉手苅林昌氏らを本土へ紹介する活動にも尽力し、沖縄文化の本質を広く伝える上で重要な役割を果たしました。

また、沖縄の文化を象徴する楽器である三線に親しむ日として、3月4日を「さんしんの日」と定めることを提唱したことでも知られています。この提唱は多くの人々に受け入れられ、現在では県内外で様々な関連イベントが開催される重要な日となっています。さらに、沖縄文化に関わるイベントの企画・プロデュース、作詞活動、舞台脚本の執筆など、その活動範囲は多岐にわたりました。北村三郎芝居塾「ばん」では“名誉教授”を務めるなど、後進の育成や他分野との交流にも力を注ぎました。別名義として、坂田英世、上原直衛を用いたこともあります。

近年の体調不良により、長年務めた「民謡で今日拝なびら」を休むことが増えましたが、2023年9月29日には惜しまれつつも番組のパーソナリティを卒業しました。番組自体は現在も継続しており、上原氏の築いた歴史と精神は受け継がれています。また、毎年3月4日に放送される特別番組「ゆかる日 まさる日 さんしんの日」では、現在も企画構成を担当しています。

その長年の功績に対し、数々の栄誉が贈られています。

2005年：第5回南部文化賞（沖縄県南部連合文化協会主催）
2006年：第5回放送人グランプリ（放送人の会主催）
2007年：第51回沖縄タイムス賞文化賞（沖縄タイムス主催）
2021年度：沖縄県功労者表彰

映画出演もしており、大島渚監督の「夏の妹」（1972年）や、中江裕司監督の「ホテル・ハイビスカス」（2002年）に出演しています。

RBCラジオでは、「民謡で今日拝なびら」の他にも、

「上原直彦の語やびら島うた」
「ふるさとの古典」
「芸能バラエティーふるさとバンザイ」（不定期特別番組）

といった番組を担当しました。

上原氏の存在感を示すエピソードとして、「沖縄県　琉球民謡歴史家　上原直彦様」とだけ記された封書が本人宛に配達されたという話は有名です。これは、いかに彼が沖縄の民謡・芸能界で確立された存在であり、多くの人々に認知されていたかを物語っています。

著書も多数出版しており、沖縄の文化や芸能に関する深い洞察や温かい視点がうかがえます。

『ふるさとばんざい 島うたの周辺』（沖縄公論社）
『語やびら島うた そぞろある記』（那覇出版社）
『浮世（うちゆ）真ん中～沖縄・話のはなし』（沖縄タイムス社）
『琉歌百景 綾なす言葉たち』（ボーダーインク）
『うちなぁ筆先三昧 随筆・巷ばなし』（ボーダーインク）

上原直彦氏は、放送人として、文化人として、生涯をかけて沖縄の豊かな芸能文化を愛し、守り、伝え続けた、まさに沖縄の宝とも言える存在です。その功績は、これからも長く語り継がれていくでしょう。

もう一度検索