上杉定昌

室町時代後期の武将。越後国守護・上杉房定の嫡男。弟は山内上杉家当主の上杉顕定。当初は定方と名乗り、享徳の乱後に関東の軍事を担う。文明6年（1474年）頃に定昌と改名。長尾景春の乱での敗退を経て上野国白井を拠点とする。父の官途、家督を継承。長享の乱では顕定を支援したが、長享2年（1488年）に白井で自害した。享年36。風流人としても知られ、文化人との交流が深かった。自害の原因には諸説がある。

概要

上杉定昌（うえすぎさだまさ）は、宝徳2年（1453年）に越後国守護を務めた上杉房定の嫡男として生まれる。室町時代後期、戦乱が続く関東地方を中心に活動した武将である。弟に山内上杉家当主となった上杉顕定（あきさだ）がいる。当初は定方（さだかた）という名を用いたが、後に定昌と改めた。武将としての活動に加え、父と同様に風流を好み、文化人との交流も深かった人物として知られる。長享2年（1488年）に36歳で非業の最期を遂げた。

生涯

定昌が生まれた翌年の享徳3年（1454年）には、関東地方で室町幕府と鎌倉公方足利成氏、そして関東管領を担う山内上杉家・扇谷上杉家の間で享徳の乱が勃発した。父である越後守護の上杉房定も、この戦乱に際して度々関東へ兵を進めた。

文正元年（1466年）には、定昌より一つ年下の弟である顕定が、有力な関東管領家である山内上杉家の家督を継承した。これと前後して、定昌自身も文明3年（1471年）頃までに関東地方の軍事指揮を担うようになったと考えられている。

文明6年（1474年）4月頃までに、定昌は名を定昌へと改めた。この「昌」の字は、当時の扇谷上杉家当主であった上杉朝昌（ともまさ）から偏諱（へんい、将軍や主君などから一字もらうこと）として賜ったものと考えられており、父房定が同時期に混沌としていた扇谷上杉家の後継者争いに関与しようとしていた意図があったのではないかと推測されている。

改名後も、定昌は関東における山内上杉方の一員として、主に五十子（いらこ、現在の埼玉県本庄市付近）に設置された五十子陣に在陣し、戦闘に参加していた。しかし、文明8年（1476年）に、山内上杉家の家臣であった長尾景春（ながおかげはる）が反乱を起こすと、翌文明9年（1477年）正月に長尾景春勢の攻撃を受け、五十子陣は崩壊に至った。定昌はこれにより、上野国（こうずけのくに、現在の群馬県）の白井（しろい）へと退却し、以後この白井城を新たな活動拠点とするようになった。

文明18年（1486年）には、父房定が務めていた民部大輔（みんぶだゆう）の官職を引き継いだ。さらに翌文明19年（1487年）には、房定から上杉家の家督も正式に継承し、越後上杉家の当主としての地位を確立した。

家督継承後、関東地方では山内上杉家と扇谷上杉家の間の対立が深まり、いわゆる長享の乱（ちょうきょうのらん）が勃発した。定昌は、この戦いにおいて弟である山内上杉家当主の顕定を強力に支援した。特に、扇谷上杉氏の勢力圏であった武蔵国（むさしのくに）の勧農城（かんのうじょう、現在の埼玉県熊谷市付近）を攻撃するなど、積極的な軍事行動を展開し、山内上杉方の劣勢を支えようとした。

しかし、その活動のさなか、長享2年（1488年）3月24日、定昌は駐在していた上野国の白井において、多くの近臣や従者と共に自害して果てた。享年三十六という若さであった。

定昌自害の背景については、現代において複数の説が唱えられており、確固たる定説は存在しない。有力な説の一つとしては、山内上杉家の新たな当主として上杉房能（うえすぎふさよし、定昌・顕定兄弟の叔父）を擁立しようとした、顕定の有力家臣である長尾能景（ながおよしかげ）らによる陰謀によって追い詰められた結果であるとする見方がある。また、対立関係にあった扇谷上杉氏による謀略によって殺害されたとする説も根強く存在する。さらに、かつて白井城の城主であり、長尾景春の乱の後に扇谷上杉氏方についていた長尾景春自身、あるいはその残党によって突如襲撃され、抵抗かなわず自害に追い込まれた結果であるとする説も挙げられている。いずれにしても、当時の政治情勢や権力争いが複雑に絡み合った悲劇的な最期であったと推測される。

人物像

父房定と同様、定昌もまた優れた風流人として知られていた。当時の著名な文化人たちとの交流も深く持っており、その教養の高さがうかがえる。定昌の訃報を聞いた当代一流の連歌師である宗祇（そうぎ）は、京都の公卿（くぎょう）であり文化人でもあった三条西実隆（さんじょうにしさねたか）に対して、定昌が「無双の仁慈博愛（むそうのじんじはくあい）の武士」、すなわち『類まれなほど仁愛（情け深く思いやりがあること）と博愛（全ての人を平等に愛すること）の心を持つ武士』であったと述懐し、その死を悼んでいる。戦乱の世にありながら、武勇だけでなく文化的な素養と人間的な温かさを兼ね備えていた人物であったと言えるだろう。

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