上杉房能

上杉房能（うえすぎふさよし）は、戦国時代に越後国の守護を務めた人物です。越後上杉家の七代目当主として、混迷する時代の潮流の中で、自らの権威確立と越後の戦国大名化を目指しました。しかし、その道のりは平坦ではなく、最終的には守護代との激しい対立の末に命を落とすこととなります。

生い立ちと家督継承

房能は文明6年（1474年）、当時の越後守護であった上杉房定の子として生まれました。元服に際しては、守護代として越後国の実務を取り仕切っていた長尾能景が烏帽子親を務め、その名の一字である「能」を受けて房能と名乗ったと伝えられています。これは、当時の守護と守護代の緊密な関係、あるいは房能が将来的に能景の補佐を受けることを示唆する出来事であったのかもしれません。

上杉房定の長男であった定昌は早くに世を去り、次男の顕定は山内上杉家へ養子に入って関東管領という要職に就任していました。そのため、明応3年（1494年）に父・房定が病で亡くなると、房能が越後守護の地位と越後上杉家の家督を継承することになります。父の後を継いだ房能は、引き続き守護代長尾能景の補佐を受けながら、越後国を治めることになります。

守護権強化への試みと対立

守護となった房能は、越後国をより強固に支配する「戦国大名」としての道を模索し始めます。そのためには、国内の在地領主たちが持つ様々な既得権益や特権を制限する必要がありました。明応7年（1498年）には、寺社や一部の在地領主に認められていた「守護不入」（守護の役人が立ち入ることを拒否できる特権）の停止を命じるなど、積極的な守護権強化策を打ち出します。これらの施策は、当然ながら特権を制限される側からの反発を招き、また守護代として在地勢力との間で立場を調整せざるを得なかった長尾能景とも対立が生じることになります。

さらに、文亀2年（1502年）には、幕府の家臣である伊勢盛種の所領であった松山保（現在の新潟県十日町市の一部）に、房能の指示を受けた長尾輔景が強制的に入部するという事件を起こしています。これは守護による国人領主層への介入を強める意図があったと考えられますが、同時に、当時上杉氏と対立関係が生まれつつあった伊勢宗瑞（後の北条早雲）に対する牽制の意味合いもあったとする見方もあります。伊勢盛種が宗瑞と同族であったことから、房能はこの強硬な措置を通じて、遠方の宗瑞に対しても越後守護の権威を示すことを狙ったのかもしれません。

永正の乱、そして最期

守護権強化を巡る房能と国内勢力、特に守護代との間の緊張関係は続きましたが、それでも長尾能景は表向きは房能に対して忠実な姿勢を保っていました。しかし、永正3年（1506年）9月、能景が越中国における戦いで、同盟相手であった神保慶宗の裏切りに遭い、一向一揆勢によって討ち取られるという悲劇が起こります。能景の跡を継いだのは、その子である長尾為景でした。

為景は父とは異なり、房能に対して公然と反抗する姿勢を見せ始めます。そして永正4年（1507年）、為景は、房能の養子であった上杉定実を擁立し、ついに房能に対して反旗を翻しました。これが「永正の乱」の始まりです。為景と定実の軍勢は、同年8月2日に房能の拠点を急襲しました。突如の攻撃に房能はたまらず、関東管領を務める兄・顕定を頼って越後からの脱出を図ります。

関東へ向かう途上、房能は直峰城に立ち寄りますが、為景軍の激しい追撃は止まりませんでした。為景軍に追われた房能はさらに南の松之山方面へ逃れます。しかし、逃げ場を失った房能は、同年8月7日の午後2時頃、松之山天水越（現在の十日町市）において、自刃して果てました。ここに越後守護上杉房能の短い、そして波乱に満ちた生涯は幕を閉じ、永正の乱は房能の敗北という形で決着を迎えることになります。

後世

房能が自刃したとされる十日町市松之山天水越には、房能を弔うために築かれたと伝わる「管領塚」が現存しています。これは、越後国の歴史において重要な転換点となった永正の乱と、その中で命を落とした上杉房能という人物の存在を今に伝えています。守護としての権威確立を目指しながらも、時代の波と守護代の台頭に抗いきれず、悲劇的な最期を迎えた上杉房能は、戦国時代の権力構造の変化を象徴する人物の一人と言えるでしょう。

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