上杉武夫

上杉武夫

上杉武夫（うえすぎ たけお、1940年3月 - 2016年1月26日没）は、生涯の大半をアメリカ合衆国で過ごした日本の造園家です。ランドスケープアーキテクトおよび教育者として、特に米国の環境や文化に融和する日本庭園の設計と普及に尽力しました。カリフォルニア州立ポリテクニック大学ポモナ校の名誉教授としても知られ、数多くの後進を育てています。また、天理教の教徒であり、パシフィック・バレー教会の教会長も務めました。

業績と哲学

上杉氏は、伝統的な日本庭園の美学と技術を基盤としつつも、南カリフォルニアを中心とした米国の多様な気候や風土、そして米国人のライフスタイルや空間スケールに適応させた庭園を創造することを追求しました。公共および民間の多岐にわたるプロジェクトを手がけ、その設計、理論構築、施工技術の発展において顕著な功績を残し、特にデザイン分野で高い評価を受けました。長年にわたり、教育者として次世代の造園家の指導・育成にも情熱を注ぎました。

米国における日本庭園の理解促進と発展に貢献した功績が認められ、2010年春には日本政府より瑞宝中綬章を授与されています。

生涯

大阪市に生まれ、家業として代々造園業を営む環境で育ちました。1962年に大阪府立大学旧農学部を卒業後、造園学の権威である久保貞氏に師事します。その後、京都大学大学院農学研究科へ進学。大学院在学中には、母校である大阪府立大学久保研究室の助手に招かれました。

久保教授のもとで、日米の造園分野における交流促進に取り組み、ガレット・エクボをはじめとする著名なアメリカ人ランドスケープアーキテクトとの交流を深めます。この経験を通じて、カリフォルニア大学バークレー校への留学を果たし、そこでMLA（Master of Landscape Architecture）の学位を取得しました。帰国後、1970年に開催された日本万国博覧会において、日本館の庭園設計に参加。その後、京都大学農学部の助手を務めました。

同年、カリフォルニア州立理工大学ポモナ校の環境デザイン学部ランドスケープ学科に助教授として招かれ、再び渡米します。1982年には同大学の教授に昇任しました。1981年には京都大学より博士号を授与されています。またこの年、ジェームズ・アーバイン・ガーデンの優れたデザインが評価され、当時の大統領夫人ロナルド・レーガン氏から全米ランドスケープ技術賞を贈られました。

1990年には、長年教鞭を執っていたランドスケープ学科内に、日本庭園に特化した米国で唯一の講座開設を実現させ、その主宰者として多くの学生を指導。この講座からは約1000名もの卒業生が輩出され、彼らは現在、全米各地で造園家として活躍しています。1991年には、自身のデザイン事務所であるTUA（Takeo Uesugi & Assoc Inc）をカリフォルニア州ウェストコビーナに設立し、代表を務めました。

教育面では、1992年からCal Poly Pomonaと当時の九州芸術工科大学（現九州大学芸術工学部）との間で学生交換プログラムの設立に尽力し、その運営を担いました。この国際交流への貢献に対し、大学から優秀賞が贈られています。2001年には、アメリカランドスケープアーキテクト協会（ASLA）より「フェロー」の称号を授与されました。2009年には、第1回日本庭園国際会議（International Conference on Japanese Gardens Outside Japan）において日本庭園デザイン賞を受賞しています。

2016年1月26日、癌のため逝去しました。

主な作品

上杉武夫氏が設計を手がけた代表的な庭園は以下の通りです。

ジョージとサカエ・荒谷日本庭園（Cal Poly ポモナキャンパス内）
ジェームズ・アーバイン・ガーデン（日系アメリカ人文化コミュニティーセンター日米文化会館、カリフォルニア州ロサンゼルス）- 現在、ロサンゼルス有数の公共空間と見なされている。
ハンティントン図書館・ハンティントン日本庭園拡張（カリフォルニア州サンマリノ）
ホープ国立医療センター・ベリーフガーデン
ホテル・ニッコー（現グランドハイアットホテル）日本庭園（ジョージア州アトランタ）
バルボアパーク内トーランス文化芸術センター日本友好庭園拡張（カリフォルニア州サンディエゴ）
ワシントンセンター庭園（ワシントンD.C.）

著書・論文（一部）

『追悼 G.エクボ先生を偲んで』（ランドスケープ研究 2000年11月号）
『実と虚のはざまで : 米国カリフォルニア州立ポリテクニック(工芸)大学ポモナ校(ランドスケープ教育の風景) 』（小林新と共著、ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 1995年11月号）
『アメリカ造園史研究の現在(<特集>造園史研究の現在 : 海外編) 』（伊藤太一 と共著）
『造園の風景構造論的研究(造園学会賞受賞業績要旨)』（造園雑誌 46(1), 50-54, 1982年7月号）
『米国の造園教育を考える』（造園雑誌 1975年10月号）
『歩く空間とその造園環境に関する研究』（久保貞と共著、造園雑誌1968年10月号）
『マス・レクリエーシヨンにおける動態分析 : その1』（青樹康雄と共著、造園雑誌1965年11月号）

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