久保貞

久保 貞（くぼ ただし）

日本の造園界において、教育者そして国際的な作庭家として多大な足跡を残した人物に久保貞（くぼ ただし、1922年7月18日 - 1990年6月9日）がいる。彼は造園家、作庭家であると同時に、現代的なランドスケープアーキテクトとしても活動した。大阪府立大学の教授として数多くの後進を育成し、また海外各地に日本庭園を創り出すことで、日本文化の普及にも貢献した。

人物と生涯

久保貞は1922年、北海道札幌の地で生を受けた。北海道大学農学部へと進み、植物学の権威である宮部金吾のもとで学問を深めた。1951年に同大学の大学院修士課程を修了。その後、母校である北海道大学での勤務を経て、大阪府立大学へと籍を移す。大阪府立大学では、緑地計画学という分野を専門とし、都市の緑化や景観設計に関する研究と教育に情熱を注いだ。その学識は広く認められ、1960年には北海道大学から農林学の博士号を授与されるに至った。翌1961年には大阪府立大学の教授に就任し、教育・研究活動の中心的な存在となる。長年にわたる功績に対し、1986年には日本公園緑地協会創立50周年を記念した第9回北村賞が贈られている。1990年6月9日、その生涯を閉じた。

教育者としての貢献

大阪府立大学における久保教授の存在は、日本の造園教育にとって極めて大きかった。彼は多くの学生や研究者を指導し、将来を担う優秀な造園家やランドスケープデザイナーを多数育成した。教育者としての久保氏は、単に知識を伝えるだけでなく、学生たちの思考力と実践力を鍛えることに重きを置いた。弟子たちへの指導は時に厳しくも情熱的であったと伝えられている。特に特徴的だったのは、課題に対するアプローチ方法に関する指導であった。指示された事柄については、必ず3日以内に進捗や結果を報告することを徹底させた。さらに、単一の解決策やアイデアに留まらず、常に三つ以上の代替案（オルタナティブ）を提示することを求めた。これは、多角的な視点を持つこと、様々な可能性を検討することの重要性を教えるためであった。また、安易な模倣を厳しく戒め、個々の独創性や創造性を伸ばすことを奨励した。このような厳しいながらも的確な指導方針のもと、中瀬勲、杉本正美、上杉武夫、安部大就、藤田好茂といった、後に日本の造園界やランドスケープデザインの世界で活躍する多くの人材が育っていった。

作庭活動と国際的な影響

久保貞の活動は、国内の教育・研究分野に留まらなかった。彼は国際的な舞台でも積極的に活動し、海外各地に日本庭園を創り出すことで、日本の庭園文化と造園技術を世界に紹介した。異国の風土や文化の中で、日本の伝統的な美意識に基づいた庭園をいかに実現するか、という課題に挑んだ。代表的な海外における作庭作品としては、アメリカのサンディエゴにあるシーワールド内に造られた「ムラタパール庭園」が挙げられる。また、カナダにおいても、レスブリッジ市に造られた「日加友好日本庭園（Nikka Yuko Japanese Garden）」や、エドモントン市にあるアルバータ大学の日本庭園など、日加両国の友好を象徴するような庭園を手掛けている。これらの作品は、単なる景観の創出に終わらず、それぞれの土地の特性と日本の庭園思想を融合させた試みとして評価されている。彼の海外での作庭活動は、日本の造園技術の高さを世界に示すとともに、異文化理解の促進にも寄与した。

交流と著作

久保貞は、国際的な交流にも積極的であった。特に、20世紀アメリカのランドスケープデザインを牽引した人物の一人であるガレット・エクボ（Garrett Eckbo）との交流は深く、互いに影響を与え合った。久保は、エクボの主要な著作の多くを日本語に翻訳し、日本の学生や実務家に紹介する役割を果たした。これにより、アメリカの先進的なランドスケープ思想や理論が日本に導入され、日本の造園・ランドスケープ分野の発展に寄与するところが大きかった。

まとめ

久保貞は、教育者として多くの有為な人材を育て、研究者として学術の深化に貢献し、そして作庭家、ランドスケープアーキテクトとして国内外で実践的な活動を展開した。特に大阪府立大学での教育は、その後の日本の造園界を支える基盤を作り、海外での作庭活動は日本文化の国際的な評価を高めた。厳格ながらも温かい指導で知られ、常に新しい視点と独創性を求めたその姿勢は、今なお多くの人々に影響を与え続けている。久保貞の遺した功績は、日本の造園・ランドスケープ分野の発展史において、極めて重要な位置を占めていると言えるだろう。

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