上杉長貞

上杉長貞（うえすぎ ながさだ）

江戸時代前期に幕府に仕えた高家旗本です。従四位下少将、宮内大輔といった官位・官職を有していました。

生涯

上杉長貞は、元和九年（一六二三年）に旗本上杉長員の次男として生を受けました。幼少期の寛永五年（一六二八年）には、五歳にして兄長政が早世したため、その家督を継承することになります。

成人後、正保元年（一六四四年）には江戸幕府における役職である高家に就任します。高家は、儀礼や典礼を司り、将軍の側近として重要な外交や朝廷との折衝に関わる役職であり、この就任により、上杉家は以後、代々高家旗本家として存続していくことになります。

さらに、慶安三年（一六五〇年）九月三日には、より将軍の側に近侍する御側高家に転任しました。また、幕府の役職と並行して朝廷における官職も拝命しており、承応二年（一六五三年）十二月二十八日には侍従に任じられています。これは、高家が朝廷との関係も深く持つ役職であったことを示しています。

公務においては、寛文二年（一六六二年）十月二十三日、明正上皇の仙洞御所が完成した際の祝賀使という重要な使節団の一員として京都へ派遣され、上洛を果たしています。上洛は単なる移動ではなく、幕府と朝廷の関係性を内外に示す重要な儀礼であり、この役割を任されたことは、当時の長貞が幕府内で一定の信頼を得ていたことをうかがわせます。

しかし、この上洛からわずか一ヶ月余り後の寛文二年（一六六二年）十二月四日、上杉長貞は突然の切腹という形で生涯を終えます。享年四十でした。若くして重要な役職を歴任し、前途を嘱望されていたであろう人物の突然の死は、当時の人々にも衝撃を与えたと考えられます。

切腹の理由

長貞が切腹に至った具体的な理由については、いくつかの史料に記されています。特に、『諸御役代々記』という記録には、彼が上洛中に明正上皇から賜った院宣を紛失したことが原因であったとされています。院宣は天皇や上皇の意思を伝える極めて重要な文書であり、これを紛失することは武士にとって大きな不覚であり、厳罰の対象となるべき事態でした。武士にとって面目を失うことは死にも等しいとされた時代背景において、長貞は自らの責任をとり、切腹を選んだのかもしれません。

参考文献

上杉長貞に関する記述は、当時の幕府の役職者に関する記録などに散見されます。例えば、東京大学史料編纂所が編纂した『大日本近世史料』の「柳営補任 一」には、彼の官歴や動向が記録されています。

彼の短いながらも波乱に満ちた生涯は、江戸時代初期における武士のキャリア形成、幕府の職制、そして厳しい規範の中で生きる武士の姿を今に伝えています。

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