下総山崎藩

下総山崎藩

下総山崎藩は、江戸時代初期に下総国葛飾郡山崎（現在の千葉県野田市山崎周辺）に存在した藩です。徳川家康の関東入国時、岡部長盛が1万2000石を与えられたことで立藩しました。当初は山崎村に陣屋を置いていましたが、後に堤台城を築城し居城としました。しかし、1609年に長盛が丹波亀山藩に移封されたため、短期間で廃藩となりました。

歴史

前史：岡部家

岡部氏は、駿河国志太郡岡部（現在の静岡県藤枝市岡部町）をルーツとする一族です。戦国時代には岡部正綱が今川家、武田家を経て徳川家康に仕え、家康の甲州平定に貢献しました。正綱の子が岡部長盛です。

『寛政重修諸家譜』によると、長盛は1568年に正綱の長男として生まれ、1584年に家督を継ぎました。長久手の戦いや第一次上田合戦で武功を挙げ、1588年には従五位下内膳正に叙任されました。この際、徳川家康から「康綱」と名乗るよう命じられましたが、長盛はそれを憚って名乗らなかったとされています。

「岡部康綱」は岡部長盛の別名とする説が有力ですが、長盛と康綱を兄弟とする説もあり、山崎に入封したのは康綱だとする見解も存在します。本稿では、康綱を長盛の別名として記述を進めます。

立藩から廃藩まで

1590年の小田原征伐後、関東に入部した徳川家康は、岡部長盛に上総・下総両国内で1万2000石を与えました。長盛は下総国葛飾郡山崎村の梅台に陣屋を構えました。岡部家の由緒書によると、この陣屋は「当分の御屋敷」とされていました。『寛政譜』では、長盛の居所は「山崎」と記されており、これにより下総山崎藩が成立したとみなされています。

1590年11月12日、長盛は梅台の陣屋に移りましたが、翌1591年には堤台に築城していた堤台城が完成し、居城を移しました。梅台の陣屋跡には、後に海福寺が建立されました。

1593年2月20日には、「岡部康綱」の名で野田の名主・百姓に法度が示され、退転した百姓には未進の税を免除して帰郷を促しました。1595年10月28日には岡部長盛が、当地の「市宿」に来た者の諸役免除、田畑の新規開発・再開発時の年貢免除規定などを記した定書を出しています。

『寛政譜』によると、岡部長盛は山崎に入ってから継室（洞仙院殿）を迎えています。継室の実父は、当時関宿で2万石を与えられていた松平康元（家康の異父弟）ですが、継室は家康の生母・伝通院の養女となり、「徳川家康の妹」として長盛に嫁ぎました。二人の間には1597年に嫡男の岡部宣勝が生まれています。

1600年の関ヶ原の戦いでは、長盛は下野国黒羽城の守備にあたり、上杉景勝の牽制に貢献しました。しかし、1609年8月には丹波亀山藩に加増移封となり、下総山崎藩は廃藩となりました。

後史

岡部家はその後、長盛・宣勝の二代で転封を繰り返しましたが、1640年に宣勝が和泉岸和田藩に移されて定着しました。岡部家は岸和田藩主として幕末・明治維新を迎えることになります。

歴代藩主

岡部家

譜代、1万2000石

* 岡部長盛（ながもり）

領地

1万2000石の領地は、上総国と下総国に分散していました。中世野田郷の中心地（近世の野田町）も藩領に含まれていました。

山崎には、近世には日光東往還の宿場が置かれていました。日光東往還は、日光街道の脇往還として整備された街道で、向小金（現在の千葉県流山市向小金）付近で水戸街道から分かれて北上し、山崎、関宿、結城などを経て、雀宮（現在の栃木県宇都宮市雀宮町・雀の宮）付近で日光街道に合流していました。

梅台の陣屋の正確な所在地や規模は不明ですが、海福寺とその西側の公園付近一帯がその跡地とされています。海福寺は1599年に岡部長盛によって開基されました。海福寺には、1604年に没した長盛の母（月宮院殿）の石塔がありますが、石塔の建立は享保年間と見られています。また、同寺には、岡部家の子孫で、幕藩体制下での最後の岸和田藩主である岡部長寛（1887年没）の墓があります。

堤台は中世の野田郷の一角で、1645年に野田から分村して「堤台村」が成立しました。堤台城の跡地には報恩寺が建立されたとされていますが、報恩寺は1868年に中野台に移転しており、移転以前の所在地は字寺山であったとも、字東寺山であったとも伝えられています。江戸川低地に面した台地上に位置していますが、正確な位置や規模は不明確です。

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