岡部正綱

岡部正綱：戦国を駆け抜けた武将の生涯

岡部正綱（おかべ まさつな）は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将であり、今川氏、武田氏、徳川氏という三つの有力大名に仕え、激動の時代を生き抜きました。

今川氏家臣としての出発

岡部氏は今川家の譜代家臣であり、正綱は弘治3年（1557年）に初陣を飾り、その武名を轟かせました。永禄11年（1568年）に武田信玄が駿河侵攻を開始すると、多くの重臣が武田方に寝返る中、正綱は今川方として徹底抗戦。弟と共に駿府今川館を占拠し、武田軍に抵抗しました。その武勇は信玄も高く評価し、鉄山宗純の仲介により開城、武田氏に仕えることとなります。

武田氏家臣としての活躍

武田氏に仕えた正綱は、その駿河侵攻に大きく貢献しました。元亀元年（1570年）の花沢城攻め、同3年（1573年）の三方ヶ原の戦い、そして翌年の岩村城の戦いにも参戦し、常に先陣を務めました。天正2年（1574年）の高天神城攻めでは、弟を失うという悲劇に見舞われながらも、その忠義を尽くしました。

正綱は武田氏の中で968貫文余という知行を与えられ、70人もの軍役を負担しました。また、水軍も率いており、武田水軍の一翼を担っていました。天正4年（1576年）には、所有する清水湊の船14艘の役銭を免除されています。

徳川氏への転身と甲斐平定への貢献

天正9年（1581年）の高天神城の戦いで一門が討ち死にするなど、武田氏の衰退が明らかになる中、正綱は天正10年（1582年）に穴山信君と共に徳川家康に内通。武田氏滅亡後、家康の家臣となりました。

本能寺の変後、家康が伊賀越えを行う中で穴山信君が殺害されると、正綱は甲斐河内領に派遣され、菅沼城の普請を行うなど穴山領の保全に尽力。徳川軍が甲斐国に侵攻すると、大須賀康高や曽根昌世と共に先陣を務め、旧武田家臣の調略を行うなど、家康の甲斐平定に大きく貢献しました。翌年には、平岩親吉と共に穴山武田氏の軍勢への指図を任されるなど、徳川氏の甲斐支配体制において重要な役割を果たしました。

突然の死と後継者問題

天正11年（1583年）11月8日、正綱は駿河国において42歳という若さで死去しました。死因については、戦傷によるもの、あるいは武田旧臣の調略の際に頻繁に酒宴を催したことによる急性アルコール中毒など、諸説あります。

墓所は静岡市葵区伝馬町の宝泰寺にあり、法名は「吸江院殿好雪道龐大居士」です。また、藤枝市岡部町子持坂の萬松院にある岡部氏の墓にも五輪塔が建てられています。

通説では、後に福知山・大垣藩主となった岡部長盛が後を継いだと言われていますが、近年の研究では、「康綱」と称される人物が次の当主であった可能性が指摘されています。前田利久氏の研究によれば、長盛が通字である「綱」を名乗っていない点や、長盛以前の当主関係文書の原本が伝わっていないことなどから、長盛が正綱の実子ではなく、康綱の死後に同家を継いだ別系の岡部氏の人物であった可能性も考えられるとのことです。

岡部正綱は、激動の戦国時代を今川、武田、徳川という三つの大名に仕えながら生き抜いた、類まれなる武将でした。その武勇と知略は、それぞれの勢力において高く評価され、重要な役割を担いました。彼の生涯は、戦国時代の武将の生き様を雄弁に物語っています。

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