不道徳教育講座

不道徳教育講座

『不道徳教育講座』（ふどうとくきょういくこうざ）は、作家三島由紀夫による評論および随筆であり、この作品は彼の純文学作品には見られないユニークな機知や逆説、そしてユーモアが込められています。その内容は、当時の道徳観や倫理に逆らうタイトルが多く並んでおり、合計70章から構成されています。各章には「知らない男とでも酒場へ行くべし」や「人に迷惑をかけて死ぬべし」といった挑発的かつ風刺的なテーマが掲げられています。このようなスタイルは、井原西鶴による中国の『二十四孝』を基にした『本朝二十不孝』という作品のパロディに倣ったものです。

発表経過

1958年、三島の『不道徳教育講座』は、雑誌『週刊明星』の創刊号から連載が開始され、1959年まで続きました。この連載中には、映画化や松竹新喜劇、さらには連続テレビドラマへと展開されるなど、その人気は広がりました。連載の合間に単行本としても刊行され、初版は中央公論社から1959年の春に発売されました。続編は1960年に発刊され、その後も文庫版として角川文庫から様々に改版され続けています。特に「暗殺について」という章は初版以外では削除されていますが、これは作品の一部として興味深い要素となっています。

作品背景

作品の冒頭で三島は、本作のスタイルが井原西鶴の影響を受けていることを説明しています。「自分を親孝行だと思ふことが孝行のはじまりだ」との考え方を背景に、三島は逆説的ながらも深い教訓を読み取ることができる作品だと位置づけています。1969年には、連載開始から十年以上経った時点での世情とのズレを認めつつも、そのメッセージは今でも有効であると主張しました。

作品評価・研究

『不道徳教育講座』は、不道徳とはいっても無難でユーモラスなエンターテイメントとして多くの人々に好意的に受け入れられました。大衆演劇や映画化される過程で、多様な展開を見せていることでも、その影響力を感じることができます。評論家の進藤純孝は、三島が不道徳の教祖として現代女性に支持されている様子を述べ、「無難な不道徳」を勧めているとしつつ、これが当時の時代を映し出す一面であったと考えています。

また、奥野健男は本作を現代日本文学の中でも特に秀逸なアフォリズム集として評価し、三島が持つ机上の空論を超えた「機智」「エスプリ」「ユーモア」を生かした新しい側面を引き出しています。特に彼は、三島が描くユーモアある文体の裏には、社会的な批判や人間存在の深淵を探る視点もあると指摘し、最終的には健全な道徳を容認するような結論が導かれていると解説しています。

おもな刊行本

『不道徳教育講座』は1959年3月に中央公論社から発刊され、その後も文庫版や改版が行われています。続編の『続不道徳教育講座』は1960年に刊行され、エンターテイメント性を感じさせる挿絵が豊富に含まれています。これらの作品は、三島の文学の中でも特に愛されている作品として位置付けられており、多様な形での受容が続いています。これに加え、三島の晩年には彼の自決を背景に、その作品の深い意味や哲学が新たな形で評価され続けています。

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