世俗貴族

イギリス貴族院の世俗貴族：歴史と現状

イギリス貴族院には、聖職貴族（聖公会主教）と対比される「世俗貴族(Lords Temporal)」が存在します。これは、世襲貴族と一代貴族を包括する呼称であり、1999年の貴族院法改正以降、世襲貴族の議席数は92に制限されています。本稿では、世俗貴族の歴史、構成、そして貴族院改革について詳細に解説します。

歴史：貴族院改革と世襲貴族の変遷

かつては、アイルランド貴族を除く全ての世襲貴族が貴族院議員となる権利を有していました。しかし、1999年貴族院法の施行により、世襲貴族の議席数は大幅に削減されました。この法改正は、イギリス政治における長年の議論の末に実現したものでした。

世襲爵位は、多くの場合男性しか継承できないため、2008年以降、女性世襲貴族の貴族院議員はマー伯爵夫人マーガレット・オブ・マーただ一人でした。しかし、同夫人は2020年5月1日に議員を辞任しています。

貴族院改革はその後も議論されてきましたが、大規模な法改正は行われていません。トニー・ブレア政権下のウェイカム報告書は、世俗貴族の一部を公選にすることを提案しましたが、これは批判を受け議会で否決されました。デーヴィッド・キャメロン政権下でも、貴族院議員数の制限や世襲貴族の直接選挙などの提案がありましたが、いずれも実現しませんでした。

世俗貴族の構成：世襲貴族と一代貴族

1999年以降の貴族院において、世俗貴族は少数の世襲貴族と多数の一代貴族から構成されています。2020年2月時点では、793名の貴族院議員のうち678名が一代貴族でした。

世襲貴族

歴史的には、数百人の世襲貴族（イングランドとスコットランドの貴族を含む）が貴族院に議席を有していました。世襲爵位は国王（現代では首相の助言に基づき）によって創設されます。

スコットランド貴族とアイルランド貴族は、常に貴族院で議席を有していたわけではありません。グレートブリテン王国の成立（1707年）時には、スコットランド貴族は16名の代表議員を選出する権利しか与えられず、グレートブリテン及びアイルランド連合王国の成立（1801年）時にも、アイルランド貴族は28名の代表議員を選出する権利しか与えられませんでした。アイルランドの独立（1922年）に伴いアイルランド貴族代表議員制度は廃止され、1963年の貴族法によりスコットランド貴族全員に議席が与えられたことで、スコットランド貴族代表議員制度も終焉を迎えました。

1999年の改革以降、世襲貴族の議席は92に削減され、その選出方法は、軍務伯と式部卿の2議席、貴族院議員による選出15議席、そして党派ごとの世襲貴族による互選75議席という複雑な様相を呈しています。

一代貴族

一代貴族は、1958年[[一代貴族法]]に基づき叙爵された貴族であり、全員が男爵です。叙爵権は国王にありますが、首相や貴族院任命委員会の助言、そして政党間の均衡を考慮して行われます。2000年には、独立任命委員会（貴族院任命委員会）が設立され、「人民貴族(People's peers)」15名が選出されました。

廃止された分類：常任上訴貴族

2009年の連合王国最高裁判所の設立以前は、常任上訴貴族（法服貴族とも呼ばれる）が貴族院の司法機能を担っていました。最高裁判所の設立後、常任上訴貴族は最高裁判所の裁判官に転任しました。

まとめ

イギリスの世俗貴族は、歴史的経緯と近年の貴族院改革によって複雑な構成となっています。世襲貴族と一代貴族、そしてかつて存在した常任上訴貴族の変遷は、イギリス政治史における重要な一側面を示しています。今後の貴族院改革の行方にも注目が集まります。

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