軍務伯

軍務伯：イギリス王室儀式の守護者

軍務伯（Earl Marshal）は、イギリスにおける由緒ある官職であり、その歴史は中世にまで遡ります。様々な称号で呼ばれるこの役職は、単なる名誉職ではなく、王室や国家の重要な儀式に深く関わる、極めて重要な役割を担っています。

歴史：軍事的役割から儀礼的役割へ

中世においては、軍務伯はマーシャル（大司馬の副官）として、国王の宮廷における秩序維持に携わっていました。当初は高い地位ではありませんでしたが、徐々に権限と地位を高め、典礼や紋章に関する事務も扱うようになりました。時間の経過とともに軍事的要素は薄れ、儀礼面が主要な職務となっていきました。

14世紀の騎士法廷設立時には、軍務伯は大司馬と共に裁判を共宰しました。騎士法廷は当初、反逆罪や捕虜、身代金、紋章、軍需品の契約など軍事関連の紛争を扱う民事裁判所でしたが、大司馬が廃止された後、ジェームズ1世によって、称号、紋章、名誉毀損に関する裁判所へと改編されました。軍務伯は唯一の裁判官となり、1737年以降は長らく開廷されていませんでしたが、1955年に裁判を行い、その存続を示しました。

1484年には典礼と紋章を統括する紋章院が設置され、軍務伯はその総裁に任命されました。紋章院総裁として、軍務伯は戴冠式、王族の結婚式、国葬、議会の開会式、ガーター騎士団の例会など、重要な王室儀式の運営を監督します。

世襲と継承：ノーフォーク公爵家との深い繋がり

軍務伯の地位は、当初は世襲されませんでした。しかし、最初の世襲ロード・マーシャルに就任したのは、初代ペンブルック伯爵ウィリアム・マーシャルの父、ジョン・フィッツギルバートであり、彼以降マーシャル家は軍務伯を世襲しました。その後、マーシャル家が断絶すると、ノーフォーク伯爵ビゴッド家、ノーフォーク公爵モウブレー家、そしてハワード家が軍務伯の地位を継承しました。1397年以降は「アール・マーシャル」と呼ばれるようになりました。

1672年からは、ノーフォーク公爵ハワード家が継続して軍務伯の地位を世襲してきました。しかし、1673年の審査法成立により、カトリック教徒は公職から排除されたため、カトリック教徒であるノーフォーク公爵家は一時的に軍務伯の職務を遂行できなくなりました。この間は、ハワード家のプロテスタントの分家であるサフォーク伯爵家やカーライル伯爵家が代行を務めました。

1999年の貴族院改革では、世襲貴族の議席数が大幅に削減されましたが、軍務伯の地位は維持されました。

現代：伝統と権威を継承する軍務伯

2014年現在、軍務伯は第18代ノーフォーク公爵エドワード・フィッツアラン＝ハワードが務めています。軍務伯は、イギリス王室の伝統と権威を象徴する重要な役職であり、現代においても、重要な儀式や典礼において不可欠な存在であり続けています。その歴史と役割は、イギリスの歴史と文化を理解する上で重要な要素となっています。

歴代軍務伯一覧

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参考文献

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