世界都市博覧会

世界都市博覧会（せかいとしはくらんかい）は、1996年3月24日から同年10月13日まで、東京臨海副都心で開催される予定だった大規模博覧会です。通称は世界都市博、あるいは都市博。このイベントは、財団法人東京フロンティア協会を主催団体として計画が進められました。

開催構想とその変遷

この博覧会構想は、1985年に東京都知事（当時）の鈴木俊一氏が提唱した「東京テレポート構想」に源流を持ちます。鈴木氏はかつて日本万国博覧会の運営にも携わった経験があり、長年の夢として「首都圏での大規模博覧会開催」を実現したいという強い思いを抱いていました。1988年には、徳川家康の江戸入府400年事業検討の中で、国際的なイベントとしての「東京世界都市博覧会（仮称）」開催が提案され、具体的に動き出します。

翌年には、都知事の諮問機関「東京世界都市博覧会基本構想懇談会」が設置され、検討結果として「東京フロンティア」という名称で、世界各都市の課題解決と21世紀の都市像を提示するという、先進的な企画が報告されました。これを受け、都庁内に専門組織が設置され、1990年には主催団体である財団法人東京フロンティア協会が設立されます。

当初の基本計画「東京フロンティア基本計画」（1990年4月）では、1994年3月から12月までの300日間、臨海副都心全体を会場とし、目標来場者数3,000万人とされていました。

しかし、1991年にバブル経済が崩壊すると状況は一変します。臨海副都心への入居を予定していた企業の撤退が相次ぎ、建設コストも上昇し予算は膨らむ一方でした。臨海副都心開発自体の先行きが不透明になる中でも、鈴木知事の強い意志により、1993年に博覧会の正式開催が決定されます。この時点で、開催期間は1996年3月24日から10月13日までの204日間に短縮され、目標来場者数も2,000万人に修正されました。テーマは「都市・躍動とうるおい」と設定されました。

博覧会は、主要な4つの特設会場に加え、テレコムセンター、有明コロシアム、お台場海浜公園などの隣接施設や、都庁舎、江戸東京博物館などの連携会場も活用し、広がりを持たせた展開が構想されていました。企画には市民の参画も積極的に取り入れる方針が示され、公募による参加制度も設けられました。また、「世界都市フロンティア会議・東京'96」と称する大規模な国際会議の開催も計画され、都市の未来に関する議論が行われる予定でした。

博覧会中止へ至る経緯

バブル崩壊によるオフィス需要の低迷と、臨海部新土地利用方式への評価の低さから、進出を予定していた企業の契約辞退が相次ぎ、開催に向けた環境は厳しさを増しました。このような状況下で、1995年4月に行われた東京都知事選挙に、青島幸男氏が都市博の中止、臨海副都心開発の見直しなどを公約に掲げて立候補します。結果、青島氏は開催を公約とした対立候補に大差をつけて当選しました。

当選後、青島氏は開催準備が進んでいる状況に驚きながらも、公約履行の可否を迫られます。事務局側は中止による約1,000億円の損失を予測していました。開催の最終判断期限が迫る中、都議会は博覧会開催を求める決議を可決します。しかし、青島氏は多くの観測に反し、期限である5月31日に博覧会の中止を正式に発表しました。この決定は広く衝撃を与え、前知事からは強い反発も生まれました。

中止決定とその後の影響

中止決定後、都は既に契約済みの業者への賠償など、多岐にわたる後処理に追われることになります。都の最終発表によれば、中止による実際の損失額は約610億円であり、開催予定だった場合の支出を下回る結果となりました。一方で、受注企業の中には代金回収が困難になるケースが発生したため、都は緊急融資で対応しましたが、一部の債権は未回収のまま残っています。

都市博の中止により、臨海副都心開発の方向性は練り直しを迫られます。しかし、中止が大きく報じられたことで、皮肉にも臨海副都心の都民への認知度は大幅に向上しました。これを契機に、開業したゆりかもめ（当時は陸上区間のみ）は、開発途上の埋立地にも関わらず多くの乗客を運びました。

博覧会は中止されましたが、民間主導による開発は継続されます。東京国際展示場（東京ビッグサイト）、フジテレビ本社ビル、パレットタウン（現在は再開発のため閉鎖）などの大規模施設が相次いで開業し、臨海副都心はオフィス街ではなく、商業施設や観光施設が集まるアーバンリゾートとしての性格を強めていきます。ゆりかもめやりんかい線は利用者が増加し、輸送力の増強が図られるほどの盛況を見せています。

予定されていた姿と関連事項

世界都市博覧会は、インターシティランド、メディアランド、コミュニティランド、国際展示場の4つの特設会場で構成される計画でした。テーマ館や海外都市館、国内外の有力企業パビリオンが出展予定であり、出展者には前売入場券の購入依頼も行われていました。

既に販売されていた前売入場券（約264万枚）については、中止決定後、全国の主要旅行代理店などで払い戻しが行われました。また、博覧会のために関係各所への説明や調整が進められていましたが、中止決定に伴い、国連事務総長への説明、プロデューサーの解職、そして主催団体である東京フロンティア協会の解散といった対応が取られました。

博覧会中止の妥当性については、当時すでにバブル崩壊が進み、過去の地方博覧会でも苦戦する例があったことから、開催された場合も目標通りの集客や経済効果が得られたかは不明であるという指摘があります。一方で、開発の起爆剤として期待された博覧会の中止が、その後の臨海開発に影響を与えたという批判もあります。

博覧会の会場予定地だった場所の多くは、現在、日本科学未来館やダイバーシティ東京といった施設が建ち並び、2020年東京オリンピック・パラリンピックでも会場の一部として利用されました。また、新宿の動く歩道など、都市博のために準備され、中止後に別の場所で活用されたものも存在します。

その他、東京大使というマスコットキャラクター、開催までの残日表示計、イメージキャラクター（戸田麻衣子氏）、多数製造された関連グッズ、記念テレホンカード、都営バスの広告、イメージソング（スティーヴィー・ワンダー氏の楽曲）など、中止決定までに様々な準備が進められていました。テレビや漫画などのメディアでも、この幻の博覧会やその中止について言及される機会がありました。

世界都市博覧会は実現しませんでしたが、その計画や中止に至る経緯は、当時の日本の経済状況や都市開発のあり方を示す歴史的な事例として記憶されています。

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