世界SF全集

世界SF全集

『世界SF全集』は、早川書房が1968年10月から1971年8月にかけて刊行したSF小説の叢書（全集）です。函の表面には『21世紀の文学 世界SF全集』と表記されています。全35巻からなり、SF作品を幅広く集めた叢書として知られています。

概要

この全集は、『S-Fマガジン』の初代編集長である福島正実が企画し、福島と副編集長の森優（南山宏）が編集実務を担当しました。石川喬司、野田宏一郎（昌宏）、伊藤典夫がアドバイザーを務めました。ジュール・ヴェルヌの時代から現代に至るまでの全世界のSF作品を網羅的に収録するという、世界的にも類を見ない壮大な企画であり、刊行時には「世界で初めての画期的な全集」として宣伝されました。

版型は四六判の函入り上製本で、各巻は400ページから700ページ程度で構成されています。装幀は勝呂忠が担当しました。

1968年10月に刊行が開始され、最初の配本は第10巻の『ハックスリイ オーウェル』でした。これは、「SFも文学として認められる機会を既成のファン以外にも広げたい」という福島正実の意図によるものでした。森優によれば、ジョージ・オーウェルの未亡人であるソニア・オーウェルから「SFの全集に含められるのは不本意である」という抗議がありましたが、説得によって理解を得ました。この巻は日本図書館協会選定図書に指定されています。刊行中の1969年5月には、福島正実が早川書房を辞職するというトラブルが発生しましたが、月1巻の刊行ペースは維持され、1971年8月の第4巻『ガーンズバック テイン』の配本をもって完結しました。当初は平均8000部程度の販売を期待していましたが、実際にはその倍以上の実績を上げたと言われています。

各巻は、おおむね年代順に作品が配列されています。第1巻から第26巻までは海外作家の作品、第27巻から第30巻までは日本の作家の作品、そして第31巻から第35巻までは短編のアンソロジーとなっています。収録作品は英米の作家が中心ですが、アレクサンドル・ベリャーエフ、イワン・エフレーモフ、ストルガツキー兄弟といったソ連の作家や、スタニスワフ・レム（本全集では「スタニスラフ・レム」と表記）、ルネ・バルジャベル、ヘルベルト・W・フランケなど、様々な国の作家の作品が収録されています。

北原尚彦は、「本全集の最大の功績は、「SFの名作が図書館に置かれるようになった」ことではないか」と評価しています。

2007年には、月報に掲載された文章を再録した早川書房編集部編『日本SF・幼年期の終り――『世界SF全集』月報より』が刊行されました。

内容

各巻の内容は多岐にわたりますが、SFの古典から現代的な作品まで、幅広い時代と地域の作品を網羅している点が特徴です。海外作家の作品では、SFの基礎を築いた作家たちの作品や、当時の最新のSF作品が紹介されました。日本作家の作品では、日本のSFの黎明期を支えた作家たちの作品が収録されています。短編アンソロジーでは、様々なテーマやスタイルのSF作品を楽しむことができます。

備考

刊行開始時の予告からは、いくつかの変更点があります。

第4巻『ガーンズバック テイン』に収録されたジョン・テインの作品は、予告では『時間流』でしたが、『鉄の星』に変更されました。
第21巻『ポール／コーンブルース アンダースン ファーマー』は、予告では『ポール／コーンブルース ファーマー』となっていました。また、同巻に収録されたフィリップ・ホセ・ファーマーの作品は、予告では『フレッシュ』でしたが、『恋人たち』に変更されました。
第25巻『バルジャベル フリック フランケ』は、予告では『バルジャベル ダルトン』となっていました。同巻にはクラーク・ダールトンの『禁じられた者の世界』（『追放者の惑星』）の収録が予定されていましたが、版権などの都合により、ヘルベルト・W・フランケ『思考の網』が再録されました。
第30巻『筒井康隆 眉村卓 光瀬龍』は「新作書下ろし長篇」と予告されていましたが、都合により、すべて既発表作品の再録となりました。
全35巻の他に別巻として『SF講座』が予告されていましたが、他の出版物を参照するということで取りやめとなりました。

参考文献

M・M「編集後記――全巻刊行を終えて」『世界SF全集 4 月報 (35)』、早川書房、7-8頁、1971年8月。

北原尚彦「空想科学小説叢書列伝 3 《世界SF全集》名作SFの集大成」『S-Fマガジン』第35巻、第4号、早川書房、90-91頁、1994年4月。

早川書房編集部 編『日本SF・幼年期の終り――『世界SF全集』月報より』早川書房、2007年8月25日。ISBN 978-4-15-208847-5。

関連項目

ハヤカワ・SF・シリーズ
* S-Fマガジン

もう一度検索