並河誠所

並河誠所：実地調査に基づいた地誌『五畿内志』の編纂者

並河誠所（なみかわせいしょ、1668-1738）は、江戸時代中期に活躍した儒学者にして地理学者です。幼名は永、字は宗永、後に尚永と改めました。並川五一、並川五一郎といった別名でも知られています。弟には、同じく儒学者として名高い並河天民がいます。

誠所は、近畿五カ国を対象とした詳細な地誌『五畿内志』を著したことで知られています。この大著は、実に6年間にわたる綿密な実地調査の成果であり、単なる文献からの記述にとどまらず、誠所自身の足で各地を踏査し、自ら情報を収集したという点で大きな意義を持ちます。調査の過程では、延喜式式内社の比定にも取り組んでおり、歴史研究への貢献も著しいです。

生涯と学問

誠所は、現在の京都府京都市伏見区に位置する富農の家に生まれました。24歳の時、京都で著名な儒学者伊藤仁斎の堀川塾に入門し、儒学を学びます。その後、遠江国掛川藩、武蔵国川越藩に藩儒として仕えましたが、いずれも長くは続かず、その後は江戸で私塾を開いて後進の育成に当たりました。

弟の天民が京都で塾を開いていたことから、兄弟は頻繁に交流を持ち、誠所は天民の経世済民思想に大きな影響を受けたと考えられています。また、学問への関心は儒学にとどまらず、歴史、地理、動植物、風俗、異聞など多岐に渡り、宝蔵学者である関衡祖や野呂元丈らとも交流を深めていました。

56歳の時、幕府の命を受けて古文献の探訪を行いました。京都、奈良、大坂など畿内各地を巡り、古文献の収集にあたると同時に、地誌作成への着想を得ます。この経験が『五畿内志』編纂への大きな動機になったと考えられます。

その後、大坂の懐徳堂などで教鞭を執った後、三島宿の北に「仰止館」という私塾を開設。62歳で幕府から畿内地誌編纂の命を受けると、本格的な調査を開始します。河内国から調査を始め、村々の検地帳を調べ、字名、古墳、氏神、古跡といった情報を聞き取り調査によって集めました。

摂津国、大和国と調査範囲を広げ、検地帳や村明細帳といった資料を収集する一方、自ら村々を歩き、山川、集落、寺社、橋梁、名産、古墳、池など、ありとあらゆるものを詳細に記録していきました。

こうして6年間にわたる調査と編纂作業を経て、享保19年（1734年）、『五畿内志』が完成します。

71歳でこの世を去った誠所ですが、『五畿内志』は日本の歴史地理学において重要な位置を占める地誌として、今日でも高く評価されています。その内容は、単なる地理的記述にとどまらず、当時の社会、文化、歴史といった多様な側面を反映しており、近世日本の社会を知る上で貴重な資料となっています。誠所は、実地調査を重視し、自ら足を運び情報を集めたことで、正確で詳細な情報を『五畿内志』に盛り込みました。その姿勢は、現代の研究者にも大きな示唆を与えてくれるでしょう。

大正6年（1917年）、従五位を追贈されています。墓所は当初金堀塚（現静岡県立三島北高等学校内）にありましたが、その後本覚寺に移されています。

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