中国伊斯蘭教協会

中国伊斯蘭教協会について

中国伊斯蘭教協会（ちゅうごくいすらむきょうきょうかい、簡体字中国語: 中国伊斯兰教协会、拼音: Zhōngguó Yīsīlánjiào Xiéhuì）は、中華人民共和国におけるイスラム教の公認組織です。中国政府の関連団体であり、建国後に政府によって設立された「愛国的宗教協会」の一つです。国内でアホン（イスラム教の指導者）を公認する唯一の権限を持っています。「伊斯蘭教」は「イスラム教」の音訳による当て字です。

日本では中国イスラム協会、中国イスラム教協会とも呼ばれ、英語ではChina Islamic AssociationまたはIslamic Association of Chinaと表記されます。

現状

協会の規約には入会条件や資格に関する記述がなく、会員数は不明です。しかし、2018年に中国国務院が発表した『宗教白書』によると、公認された教職者は5万7000人、信者数は約2000万人とされています。

組織

協会の最高機関は4年に1度開催される「全国代表会議」です。中国全土から代表が参加し、活動内容の確認、規約の改定、常務委員会の改選などが行われます。代表の選出は「常務委員会」が行います。会議では、常務委員会とは異なる「委員会」のメンバーも選出されます。

役員として、会長（1名）、副会長（若干名）、秘書長（1名）が選出され、秘書長を補佐する「副秘書長」も若干名存在します。これらの役員には、新疆ウイグル自治区や寧夏回族自治区などのムスリムが多い地域の代表が多く選出される傾向があり、メンバーは男性がほとんどで、女性は非常に少ないです。

「委員会」の任期は次の全国代表会議までで、約6年です。委員会の会議は2年に1度開催され、協会の活動内容が検討されます。会長などの人事異動は、委員会の協議と選挙によって決定されます。また、「顧問」と呼ばれる役職も存在します。

協会の実質的な運営を担うのは、「委員会」の中から選出される「常務委員会」です。常務委員会は、全国代表会議や「委員会」での決議を実行し、重要な事項を検討・決議します。また、副秘書長の任命も承認します。常務委員会の会議は毎年1度開催されます。

秘書長や副秘書長は中国共産党員が選ばれるのが慣例で、党と協会の橋渡し役を担っています。党の政策や方針は、秘書長や副秘書長を通じて協会に伝えられます。共産党員の協会メンバーは、中央・地方を問わず存在し、地方ではモスクのアホンや管理責任者など重要な役職を担っています。

歴史

毛沢東政権下

中華人民共和国建国以前には、中国回教協会という全国規模のイスラム教組織が存在していましたが、国共内戦によって台湾に移りました。中華人民共和国は、イスラム教を公認宗教として認め、信仰の自由を保障しました。協会副会長は、「建国は中国におけるイスラム教の新しい幕開けとなった」と主張しています。また、「回教」という呼称を「伊斯蘭教」に統一しました。

1952年、協会の準備会議が開催され、1953年5月11日に中国伊斯蘭教協会が設立されました。初代会長にはブルハン・シャヒディが選出されました。その後、各地にイスラム教協会が設立されました。当初、本部は北京の東四清真寺に置かれました。

中国政府は、帝国主義の影響を排除するために宗教に介入しましたが、イスラム教の習慣は尊重され、モスクの修復やワクフ（寄進）の保持、税制優遇が行われました。

迫害

1957年、反右派闘争が始まり、ムスリムは厳しい状況に置かれました。ウラマーは社会的地位を失い、税制優遇も廃止されました。1958年にはアホンが清真寺から追放され、1966年には文化大革命が始まり、宗教弾圧が行われました。礼拝の禁止、モスクの破壊、ムスリム墓地の更地化、アホンへの拷問など、ムスリムは多くの被害を受けました。地方のイスラム教協会も解散されましたが、1972年に事業が再開され、1976年の毛沢東の死によって文化大革命は終結しました。

鄧小平政権下

鄧小平の指導の下、改革開放政策が導入され、宗教政策にも変化が見られました。1980年に協会の機能が再開され、第4回全国代表会議が開催されました。1982年には宗教政策の誤りが修正され、宗教信仰の自由が保障されました。地方のイスラム教協会も再結成され、破壊されたモスクの修復も始まりました。これに対し、『ル・フィガロ』は「中国がイスラム諸国に寛大な姿を見せようとしている」と報道しました。1979年には、15年ぶりにメッカ巡礼団が派遣され、1980年にはソ連のアフガン侵攻を非難しました。

江沢民政権下

1993年、第6回全国代表大会にてモスクの管理運営方法を制度化する「清真寺民主管理試行弁法」が採択されました。また、規約に「民族団結」や「教派団結」が追加されました。

胡錦涛政権下

2003年、アメリカとイギリスによるイラク戦争に反対する声明を発表しました。2009年のウルムチ騒乱では、会長が騒乱を非難し、副会長はモスクの閉鎖を容認する発言をしました。また、中国政府によるムスリム迫害はアメリカによる「噂」であると主張しました。

習近平政権下

2012年に習近平政権が発足し、「宗教中国化」を掲げ、各宗教が中華文化に歩み寄るように求めました。2019年には、イスラム教を「中国化」する計画を発表しました。協会は政府の意向を受け、計画を各地に伝達しましたが、「イスラム教の進行や習慣は変えない」としています。

ウイグルへの対応

2013年の天安門広場でのテロを受け、協会はウイグル族のウラマーに対し、「テロリストはクルアーンを曲解している」と教育し、統一解釈書のみを用いるように命じました。2019年にはアメリカの「ウイグル人権法案」を非難しました。

活動

協会の規約には、「人民政府に協力し、宗教信仰自由の政策を実施し、イスラームの優れた伝統を向上させ、祖国を大切に守り、世界平和を保護する」とあります。具体的な活動としては、教務活動、アホンの育成、イスラム文化遺産の整理、イスラム学術研究、教義書の翻訳出版、モスクによる公益事業の促進、国際交流などがあります。

2000年の活動報告では、愛国主義宣伝教育の強化、社会安定維持、ムスリムの合法的権益の保護、メッカ巡礼の管理強化などが挙げられています。

教育活動

中国伊斯蘭教経学院を運営し、アホンの育成に努めています。また、『中国穆斯林』というイスラム教出版物を発行しています。

愛国的活動

ラマダン明けの祭日を祝うイベントを開催し、政府高官も参加しています。また、モスクに中国国旗を掲揚することを表明し、ムスリムの愛国心を促進しています。メッカ巡礼に向かうムスリムには、GPS装置付きの「スマートカード」が配布されています。

対外活動

イスラム教指導者や機関との交流を企画・参加しています。ウルムチ騒乱後にはイスラム協力機構と交流し、サウジアラビアに留学生を派遣しました。また、サウジアラビア皇太子をモスクに招待しました。

エジプトのアズハル大学に留学生を派遣し、アホン訓練を行っています。メッカ巡礼団を組織し、巡礼者を支援しています。

ハラール認証

ハラール認証は協会の主要な活動の一つです。認証は地域協会や協会が行います。協会はマレーシアのJAKIMから認証を受けています。ハラール認証では、アホンを配置し、加工工程にムスリムを配置することで、雇用問題の解決にも貢献しています。認証料金を徴収していますが、中小企業は免除されます。台湾のイスラム教団体とも交流しています。

参考文献

V・モンテイユ著、森安達也訳『ソ連がイスラム化する日』中央公論社、1986年
張承志『回教から見た中国』中央公論社、1993年
日本ムスリム協会編『日亜対訳・注解　聖クルアーン』1982年

論文

高明潔「一神教土着化の合理性--中国ムスリムの信仰体系と宗教活動に基づいて」『愛知大学国際問題研究所紀要』2006年
澤井充生「中華人民共和国の「宗教団体」に関する一考察--イスラーム教協会の事例」『人文学報』2011年
佐藤千歳「宗教の「利用」から「監督」への後退:―習近平政権の宗教政策からみる政教関係の変化―」『21世紀東アジア社会学』2019年
王柯「「畏敬」の争奪 : 現代中国における政治と宗教 (宗教と国際政治)」『国際問題』2018年
土屋紀義「中国のイスラム教徒 : 歴史と現況」『レファレンス』2004年
菅野博史「中国仏教の歴史的特色と現状」『東洋学術研究』2000年
関口泰由「中国共産党政権下における宗教--宗教政策を中心として」『日本大学大学院総合社会情報研究科紀要』2005年
Min Junqing (2013). “The Present Situation and Characteristics of Contemporary Islam in China” (英語). Journal of the interdisciplinary study of monotheistic religions 2013

外部リンク

中国伊斯蘭教協会

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