中国軍管区司令部跡

中国軍管区司令部跡：広島の歴史を物語る遺構

広島市中区基町、広島城址公園内に位置する中国軍管区司令部跡は、第二次世界大戦中に旧日本軍が設置した防空作戦室の遺構です。この施設は、現存する唯一の旧陸軍防空作戦室として、また広島原爆の第一報を外電した場所として、非常に重要な歴史的価値を持っています。

施設の概要

中国軍管区司令部跡は、半地下式の鉄筋コンクリート平屋建てで、広島城本丸を囲む内堀の石垣付近に位置しています。周囲には広島護国神社があり、入り口には広島市が設置した原爆被災説明板が設けられています。かつては平和学習の目的で内部見学が可能でしたが、2017年以降、安全上の理由から内部見学は禁止されています。

歴史的背景

広島城は、明治時代から国内の主要な軍事拠点として機能していました。太平洋戦争末期には、本土決戦を想定した軍事組織再編が行われ、防空作戦室はその一環として1944年末から1945年初め頃に突貫工事で建設されました。

防空作戦室の主な任務は、中国地方5県の上空を飛ぶ敵味方の飛行機情報を一元的に集め、高射砲隊や航空隊への指揮命令、防空警報の発令と解除を行うことでした。大戦末期には、敵機に対する防空警報の発令・解除が主な任務となりました。

防空作戦室の構造

現存する資料が少ないため、当時の関係者の証言や発掘調査に基づいて、防空作戦室の構造が明らかになっています。

立地

防空作戦室は、広島城本丸の南端、内堀の石垣沿いに位置しています。敵航空機からの発見を避けるため、半地下構造とし、上には土が盛られ木々が植えられていました。

配置

内部は、西側から情報室、通信室、指揮連絡室、防空作戦室（作戦司令室）の4つの部屋で構成されています。

防空作戦室（作戦司令室）: 中四国に点在する防空監視哨からの情報が集められ、警報の発令と解除が行われていました。壁には、防空監視哨の位置を示す電球が埋め込まれた地図がありました。簡易放送局としても使用され、NHK広島放送局の職員が夜間常駐していました。
指揮連絡室: 防空作戦室からの指示を受け、役所や軍事施設へ電話連絡を行う場所でした。比治山高等女学校の生徒たちが担当し、メモに基づいて電話連絡を行っていました。
通信室: モールス信号による通信が行われていました。
情報室: 防空監視哨からの情報を受け取り、防空作戦室の地図の電球を点灯させる場所でした。

これらの部屋の北側には、前室（保管室）と呼ばれる付帯建物がありましたが、その詳細は不明です。

施設の構造

鉄筋コンクリート造の半地下式1階建てで、延床面積は約208平方メートルです。天井は厚さ75cmで、鉄筋だけでなく鉄骨も配置されています。壁の厚さは入り口付近で約45cmで、南側の堀に面した壁は無筋構造です。内部の床はコンクリート製でモルタル仕上げとなっています。

被爆とその後

1945年8月6日の原爆投下時、防空作戦室は爆心地から約790mに位置していましたが、その強固な構造により倒壊を免れました。しかし、小窓から入った衝撃波により、内部で勤務していた人々は大きな被害を受けました。

被爆後、生き残った比治山高等女学校の生徒たちは、負傷者の救護活動に従事しました。また、この場所から原爆の第一報が外電されたとされています。

戦後、この建物は広島護国神社の倉庫として利用され、1979年に慰霊碑が建立されました。その後、平和学習の場として利用されていましたが、2017年以降は内部見学が禁止されています。

現在の状況と課題

現在、中国軍管区司令部跡は、広島市が所有し、公益財団法人広島市みどり生きもの協会が管理運営しています。しかし、建物の老朽化が進み、耐震性の問題などから内部見学は禁止されたままです。今後は、建物の保存と活用に向けて、関係各所との協議が必要とされています。

関連情報

この施設は、広島の歴史を深く理解する上で重要な場所であり、多くの人々にその存在を知ってもらう必要があります。広島城を訪れる際には、ぜひこの場所にも足を運んでみてください。

アクセス: 広島護国神社#アクセスを参照
参考文献:
広島市『広島原爆戦災誌』
比治山女子高校教員「地下壕」
広島市「広島城の現状と課題等」
大東延幸、十河茂幸「広島城内の戦争遺跡に関する研究」
関連項目: 立山防空壕、呉鎮守府地下施設群、旧日本銀行広島支店
外部リンク: 公益財団法人広島市みどり生きもの協会ホームページ、原爆被災説明板、ヒロシマピースツーリズム

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