旧日本銀行広島支店

旧日本銀行広島支店について

旧日本銀行広島支店は、広島市中区袋町に位置する、かつての日本銀行の営業所でした。1936年に業務拡大のため現在地に移転し、1992年まで使用されました。この建物は、1945年の広島原爆により爆心地からわずか380mという近距離で被爆しましたが、奇跡的に倒壊を免れ、現存する被爆建物の一つとしてその姿をとどめています。

2000年には広島市の重要文化財に指定され、同時に日本銀行から広島市に無償貸与されました。現在は「広島原爆遺跡」として国の史跡指定に向けて準備が進められています。国の重要文化財に指定されれば、日銀から市への無償譲与が決定しています。

この建物は、広島における昭和初期の代表的な建築物であり、被爆建物の中でも保存状態が非常に良好です。一般公開されており、広島市民局文化スポーツ部文化振興課に申し込むことで、芸術文化活動の拠点としても利用できます。建物は鯉城通りに面しており、袋町停留所のすぐそばに位置しています。また、東隣には頼山陽史跡資料館があります。

建物と展示

建物見学は無料で、3階と1階は貸出スペースとして公開されています。地下1階には広島県人の移民に関する資料が常設展示されています。

各階の構成

3階: フリースペース1（55m²）、フリースペース2（47m²）、フリースペース3（98m²）、フリースペース4（95m²）の貸出スペースがあります。
2階: かつての支店長室があります。
1階: 一般事務室（345m²）、ロビー（166m²）、第1応接室（32m²）、第2応接室（21m²）、面会室（10m²）があり、一部は貸出スペースとして活用されています。
地下: 第1号金庫室（105m²）、第2号金庫室（105m²）、公文庫（94m²）、OCR室（83m²）があり、移民に関する常設展示が行われています。

建物の特徴

この建物は、日清・日露戦争を経て軍都として発展した広島で、日本銀行の業務拡大に伴い建設されました。設計は長野宇平治と日本銀行臨時建築部、施工は清水組が担当しました。構造は鉄筋コンクリート造（一部鉄骨鉄筋コンクリート造）で、1936年8月に竣工し、同年9月に移転しました。

設計者の長野宇平治は、この建物の約10年前に三井銀行（後の広島アンデルセン）を設計しており、広島市内での銀行建築は2例目でした。長野は他にも多くの日本銀行の建物も設計していますが、広島支店は、正面の角柱がイオニア式である以外は、非常にシンプルな外観となっています。これは当時、満州事変から日中戦争へと向かっていた社会情勢を反映し、飾り立てない質実剛健なデザインになったとされています。外壁は花崗岩クラリット張りです。

金庫はアメリカのモスラー社製で、竣工当時のまま無傷で残っています。長野が設計した三井（帝国）銀行でもモスラー社の金庫が使用されており、そちらも被爆に耐えた金庫として有名です。

内部は長野が得意とする古典主義的な意匠が凝らされており、1・2階は吹き抜け構造で、コリント式の装飾が施された4本の角柱で支えられていましたが、天井面の装飾とともに被爆により失われました。2階の支店長室の床は寄木張り、応接室には大理石が使われています。壁の一部には、竣工当時から施されていた木目塗りが残っています。

旧日本銀行広島支店の略歴

1905年: 日本銀行広島出張所が水主町（現在の中区加古町）に設置される。
1936年: 業務拡大に伴い、袋町に新築移転。
1945年: 広島原爆で被災するも、倒壊を免れる。
1945年: 業務再開。
1946年: 営業所の復旧工事が完了。
1966年: 敷地内に職員慰霊碑が建立される。
1970年: 北側に新館が建設される。
1992年: 支店が中区基町に移転し、旧支店は空き家となる。
1994年: 「旧日本銀行広島支店」として被爆建物台帳に登録される。
1996年: 日銀が市への売却方針を表明し、市は被爆建物のみ保存する方針を示す。
1997年: 日銀が新館を撤去。
1999年: 日銀が旧新館敷地を民間企業に売却。
2000年: 広島市の指定重要有形文化財に指定される。日銀から市へ無償貸与。
2001年: 暫定的な活用を開始。
2005年: 常時開館を開始。

被爆直前と被爆時の状況

被爆当時も通常業務を行っていましたが、1945年6月頃から防空対策も行われていました。建物が堅牢であったため、軍部からの特別な指示はなかったとされています。

一部業務を三次の芸備銀行（現広島銀行）三次中町支店内の日銀三次分室に分散。
天井のトップライトと照明を材木で遮蔽。
屋上に厚さ1mほどの土盛りを実施。
エレベーターは金属類回収令により軍事供出。
非常時に備え、宿直担当を増員。
3階には大蔵省広島財務局が疎開し、業務を継続。
被爆前日には、敷地北側にあった三和信託銀行（現三菱UFJ信託銀行）広島第二支店を建物疎開し、防火用地と防空壕を設置。

1945年8月6日、爆心地から約380mに位置していたため、建物は爆風にさらされました。建物正面左側角が爆心地方向でした。建物の堅牢性から倒壊は免れましたが、3階は窓を開けていたため全焼しました。1階と2階は鎧戸を閉じていたため、内部損傷は免れましたが、窓は窓枠ごと破壊されました。

地下金庫室は無事でしたが、爆風で鉄格子が吹き飛ばされました。その後、雨漏りが発生したため、天井も無傷ではありませんでした。

行員の多くが店内や出勤途上、自宅で被爆し、死傷者が出ました。日銀広島支店では、日銀公表で死者37人、負傷者15人、広島原爆戦災誌では即死者29人（応召者5人含む）、その他の死亡者13人、負傷者21人とされています。店内での被爆による行員の被害は、日銀『みたまやすかれ』では死亡者8人、原爆戦災誌では死亡者5人、重傷者5人、軽傷者2人となっています。広島財務局員の店内での死者数は12人で、そのうち9人は焼死、3人は隣の山陽記念館の屋根の上で遺体で発見されました。

復旧と市への移管

被爆後、生き残った行員は救護作業にあたり、6日夜半から7日にかけて片付けを終え、8日には業務を再開しました。被災した金融機関のために仮営業所を設置し、自由支払い業務を開始しました。支店建物の復旧工事は1946年11月に完了しています。

1966年8月、敷地内に「日本銀行広島支店職員慰霊碑」が造られました。1992年の基町移転に伴い、慰霊碑も移設されています。

1988年に日銀は中区基町への移転を決定し、1992年に移転が完了。旧支店は日銀による処分が検討されていました。広島市は被爆50年を機に被爆建物の洗い直しを行い、旧日銀支店の保存を要望。日銀は売却を検討しましたが、広島市はその購入費用が高額であったため難色を示しました。市は日銀と協議の結果、重要文化財に指定されれば無償贈与、広島市指定重要文化財に指定されれば無償貸与とする方針となりました。

2000年7月25日に広島市指定重要文化財に指定され、同月31日には平和記念都市建設法に基づき無償貸与契約が締結されました。その後、市民や各種団体からの意見を収集し、2003年に建物全体を市民主体の芸術・文化活動の場として活用することを決定しました。

近年の取り組み

2001年から文化財としての公開も兼ねて暫定的な活用を開始し、2005年からは常時開館を開始しました。2009年からは保存・展示方法を変更するため改修工事を行い、バリアフリー化や耐震・防火工事を実施しました。2012年には、文化的価値を高めるため、被爆直後の1950年代の姿に復元する方針が決定しました。

2022年から本格的な復旧工事が始まり、2023年9月に完了しました。

交通アクセス

広島電鉄：宇品線「袋町停留場」下車、徒歩1分
広電バス：JR広島駅から3号線「袋町バス停」下車、徒歩1分

旧日本銀行広島支店は、被爆の記憶を伝える貴重な建物であるとともに、市民の文化活動を支える場所として、その役割を果たしています。

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