中尾英俊

中尾英俊（なかお ひでとし、1924年9月10日 - 2014年12月21日）は、日本の著名な法学者であり、また後に弁護士としても活動しました。家族法、とりわけ共同利用権である「入会権」に関する研究で学界に大きな貢献をしました。西南学院大学名誉教授、中国湘潭大学名誉教授の称号を持ち、その功績に対して2001年には勲三等瑞宝章が贈られています。

東京で生まれ育ちましたが、父親の仕事の関係で、幼少期から少年時代にかけては東京と故郷である福岡を行き来して過ごしました。旧制の東京府立第八中学校を卒業後、1943年4月に東京商科大学（現在の一橋大学）の商学専門部に入学します。しかし、戦時下の情勢により、翌年8月には在学中に海軍予備生徒に志願。1945年6月には海軍少尉候補生に任命され、特殊潜航艇「蛟龍」の艇長としての訓練を受けます。出撃を待つ間に終戦を迎え、同年9月に少尉に任官後、復員しました。故郷福岡に戻った後は、約一年間、実家で農業に従事しました。

1946年5月、戦後の復興期に九州帝国大学（現在の九州大学）法文学部法科に進学します。大学在学中には、一年ほど福岡県学業院中学校で教壇に立ちました。1949年3月に九州大学を卒業。在学中に国家公務員試験（六級職）にも合格しています。

大学卒業後、当初は運輸省への採用が内定していましたが、同省からの日本国有鉄道（国鉄）の分離に伴い採用が延期されたため、1949年4月からは農林省福岡統計調査事務所に勤務します。その後、1950年1月には農林省農業総合研究所九州支所へ異動しました。

法学研究への道を本格的に歩み始めたのは1952年12月からです。九州大学法学部の研究生となり、青山道夫教授の指導のもと、家族法の研究に従事しました。1955年4月には佐賀大学文理学部の講師に就任し、1957年4月には助教授に昇任します。1958年には国内研究員として東京大学に内地留学。ここでは、著名な民法学者である川島武宜教授に師事し、「入会権」の研究に没頭しました。この留学を機に、川島教授が主宰する入会権研究会の一員となります。1962年3月には九州大学より法学博士の学位を取得。1964年には日本学術振興会の流動研究員として再び一年間、東京大学に内地留学し、入会権に関する判例研究を深めました。1966年4月には佐賀大学経済学部（文理学部兼任）の教授に昇任。この頃から、国が進める入会林野近代化事業の実施に伴い、九州各県の入会林野コンサルタントとして実務にも関わるようになります。

1969年6月、西南学院大学法学部の教授に迎えられます。同年8月には同学部学部長に就任し、大学院法学研究科の設置に尽力しました。1971年に大学院が設置されると同時に、法学研究科長も兼任します（同年6月まで）。1985年7月からは同大学院の学務部長も務めました（1987年6月まで）。国際的な活動としては、1992年に日韓の学者と共に日韓家族法学会を設立。1994年9月には中国湘潭大学の名誉教授に推挙されました。

1995年に西南学院大学を定年退職し、名誉教授の称号を受けます。退職後の1997年には福岡県弁護士会に弁護士登録を行い、法学研究に加え実務家としても活動を開始しました。2001年には、長年の教育・研究に対する功績が認められ、勲三等瑞宝章を受章しました。

2014年12月21日、心筋梗塞のため90歳で逝去しました。

中尾英俊氏は、法学研究者として多くの業績を残す一方で、熱心な鉄道ファンとしても知られていました。専門分野である法学に関する著作のほか、その豊富な旅の経験に基づく紀行文なども出版しています。特に「入会権」に関する研究は、戦後の社会変動の中での共同体や土地利用の問題を深く考察したものであり、日本の法学史において重要な位置を占めています。

主な著作には以下のものがあります。

• - 『林野法の研究』（勁草書房、1965年）
• - 『入会林野の法律問題』（勁草書房、1969年）
• - 『物権法』（青甲社、1978年）
• - 『入会権 1-2（叢書民法総合判例研究）』（一粒社、1982年）
• - 『入会裁判の実証的研究』（法律文化社、1984年）
• - 『日本社会と法』（日本評論社、1994年）
• - 『もやい』（図書出版海鳥社、1997年）
• - 『東アジア行く旅』（海鳥社、1999年）
• - 『入会権―その本質と現代的課題』（勁草書房、2009年）

共編著も多数手掛けており、以下はその一部です。

• - （青山道夫共著）『民法概説』（法律文化社、1963年）
• - （渡辺洋三共著）『日本の社会と法―土地・住宅の法律問題』（日本評論社、1975年）

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