中山節夫

中山節夫（なかやま せつお）

中山節夫は、1938年7月29日に熊本県菊池郡合志町（現在の合志市）で生まれた日本の映画監督です。社会の光の当たらない部分や、子どもたちの成長する姿を真摯に見つめた作品を多く世に送り出してきました。

経歴

映画の世界に足を踏み入れたのは、多摩美術大学付属芸術学園で映画科を卒業した1960年のことです。卒業後は、日活撮影所に入社し、映画製作の現場に触れました。1962年からはフリーランスの助監督として独立し、様々な監督のもとで多くの作品に携わり、映画づくりの技術と経験を積みました。

しばらくの後、故郷である熊本へと戻り、自身の監督としての道を歩み始めます。

監督デビュー作『あつい壁』

熊本に帰郷した中山監督は、1969年に記念すべき初の監督作品『あつい壁』を発表しました。この映画は、当時の日本社会に根強く残っていたハンセン病患者への差別と偏見という、非常に重く、向き合うことが避けられがちだったテーマを正面から描いたものです。作品の題材となったのは、1953年に熊本で実際に発生した龍田寮事件と呼ばれる出来事であり、ハンセン病に対する誤解とそれに基づく差別の実態を告発する内容でした。この映画は公開後、その勇気あるテーマ設定とリアリティによって大きな話題を呼び、社会に問いを投げかけました。

その他の主な作品

『あつい壁』以降も、中山監督は社会的な関心事や、子どもたちの世界を描いた作品を撮り続けています。

『青春狂詩曲』（1975年）：高校生たちの青春群像を描いた作品で、当時の高校生たちのリアルな姿を捉えようとしました。
『兎の眼』（1979年）
『ブリキの勲章』（1981年）
『ブルートレインひとり旅』（1982年）：寝台特急ブルートレイン「はやぶさ」に憧れる小学生が、一人で列車に乗って旅に出る物語。様々な人との出会いを通じて成長する姿が描かれました。
『それぞれの旅立ち』（1985年）
『やがて…春』（1986年、にっかつ児童映画）
『風のあるぺじお』（1987年）
『先生あした晴れるかな』（1994年）
『ヘレンケラーを知っていますか』（2006年）：世界的にも知られるヘレン・ケラーの生涯を描いた作品です。

『新・あつい壁』とハンセン病問題

中山監督は、ライフワークとも言えるハンセン病問題を再び取り上げ、2007年に『新・あつい壁』を監督しました。この作品は、熊本で実際に起きた藤本事件を題材にしており、時代が変わってもなお存在する差別や偏見の根深さ、そして回復者たちの尊厳を描き出しました。故郷熊本とハンセン病療養所（例えば国立療養所菊池恵楓園など）との関わりは深く、中山監督にとってこのテーマは非常に重要な意味を持っていたと言えるでしょう。

監督作品一覧

『あつい壁』（1970年）
『青春狂詩曲』（1975年）
『兎の眼』（1979年）
『ブリキの勲章』（1981年）
『ブルートレインひとり旅』（1982年）
『それぞれの旅立ち』（1985年）
『やがて…春』（1986年）
『風のあるぺじお』（1987年）
『先生あした晴れるかな』（1994年）
『ヘレンケラーを知っていますか』（2006年）
『新・あつい壁』（2007年）
* 『野球部員、演劇の舞台に立つ!』（2018年）

中山節夫監督は、商業主義に迎合することなく、自らの信じるテーマを追い求めた映画作家であり、特に社会的な弱者や子どもたちの視点を通して、人間の尊厳や社会のあり方を問い続ける作品を生み出しました。その功績は、日本の映画史において重要な位置を占めています。

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