中山素平

中山素平（なかやま そへい）は、1906年（明治39年）から2005年（平成17年）を生きた日本の著名な銀行家です。日本興業銀行（現在のりそなホールディングスやみずほフィナンシャルグループに連なる）の頭取や会長を務め、戦後の高度経済成長期における日本経済を牽引した立役者の一人として広く知られています。また、経済同友会の代表幹事や海外技術協力事業団（現在の国際協力機構）会長など、経済界や国際協力の分野でも重要な役割を果たしました。

剛腕と親愛

その豪快かつ大胆な手腕から、評論家の草柳大蔵により「財界の鞍馬天狗」と名付けられ、その異名で畏敬されました。一方で、部下からは「そっぺいさん」と親しみを込めて呼ばれるなど、多くの人々に慕われた人物でもあります。彼のリーダーシップは「高度成長への神通力」「戦後金融史を体現」「ミスター興銀」と評され、奔放な資本主義に対して警鐘を鳴らす見識も持ち合わせていました。

生涯とキャリア

中山素平は、東京府にて、長崎県出身の父・金三郎と母・禎のもとに六男一女の三男として生まれました。「素平」という名前には、「素直で飾らない人間になり、白より白い清廉さを持て」という両親の願いが込められています。小学校4年時に父を亡くした後、旧制麻布中学校を経て、1929年（昭和4年）に東京商科大学（現在の一橋大学）本科を卒業しました。大学では高瀬荘太郎ゼミに所属し、景気変動理論に関する卒業論文を執筆しています。

大学卒業後、同年、日本興業銀行に入行。同期には後に日産自動車の社長となる川又克二がいました。入行後は本店での経理、預金、鑑定部門や、大阪、東北（福島）、札幌、神戸といった地方支店勤務を経験。戦中は南方占領地区への海外派遣（シンガポール）も経験しました。戦後、人事部長、理事、常務と昇進を重ね、1951年（昭和26年）には日本開発銀行へ次席理事として出向し、政策金融の要職に就きました。興銀に戻って副頭取を経て、1961年（昭和36年）に頭取に就任。その後、会長、相談役、特別顧問と長きにわたり要職を務め、日本の金融界をリードしました。2005年（平成17年）11月19日、肺炎による心不全のため、99歳で逝去しました。

主な業績と貢献

興銀の存続: 終戦直後、特殊銀行であった興銀はGHQ（連合国軍総司令部）の指令により廃止の危機に直面しました。中山は調査部長・復興金融部長としてGHQとの粘り強い交渉を続け、ついに興銀の存続を認めさせることに成功しました。この経験は、彼の経営者としての強い意志と交渉力の礎となりました。
川崎製鉄への融資: 1950年、川崎製鉄が当時の業界規模から見て破格の巨費を投じる千葉への銑鋼一貫工場建設計画を発表した際、日本銀行総裁の一万田尚登氏が猛反対しました。しかし、中山は計画の合理性と将来性を高く評価し、この反対を押し切って融資を決定。日本の鉄鋼業の発展に不可欠な一歩を支援しました。
産業再編への貢献: 海運業界の再編（東邦海運と日鉄汽船の合併による新和海運設立の仲介）や、日産自動車とプリンス自動車、富士製鐵と八幡製鐵の合併（新日本製鐵発足）など、戦後日本の主要産業の再編においても、その調整能力と実行力で重要な役割を果たしました。
金融市場の安定化: 低迷する証券市場の安定化を目指し設立された日本共同証券では発起人総代を務め、1965年（昭和40年）に山一證券が経営危機に陥った際には、時の蔵相・田中角栄氏に対し日銀特融の必要性を強く訴え、事態収拾に向けた決断を引き出す重要な役割を果たしました。
政策提言と国際交流: 経済同友会代表幹事やエネルギー総合推進委員会委員長として、インフレ抑制策などを盛り込んだ「中山構想」を提唱しました。また、中東協力センター理事長として中東との経済交流促進に尽力し、「資源派財界人」としても知られました。中曽根康弘政権下の「平和問題研究会」メンバーや臨時教育審議会会長代理を務め、教育改革や国鉄の分割民営化における調整役も担いました。
企業支援と教育: 多岐にわたる企業の救済や新たな事業の立ち上げにも奔走しました。ハウステンボスの起業支援や、経営危機に陥ったアスキーの救済などが知られています。晩年のライフワークとして特に力を注いだのが、国際大学の設立・運営です。日本初の授業をすべて英語で行う大学院大学として、財界の支援を得て新潟に開学。自ら初代理事長を務め、その運営に深く関与し続けました。

人物像とエピソード

親友である今里広記氏とは、それぞれ「知恵の中山、行動の今里」と評される関係でした。また、経済人の勲章ともいわれる日本経済新聞の「私の履歴書」執筆や、叙勲の推薦を終生固辞し続けたことでも知られています。「人の値打ちを役所に決めてもらうのはたまらん」と語ったといわれ、地位や名誉に固執しない独自の価値観を持っていたことがうかがえます。日本開発銀行設立時のポストに関する逸話からも、個人の役職よりも事業そのものの実現を重視する彼の姿勢が垣間見えます。

その生涯は、高杉良氏や城山三郎氏といった作家による評伝小説やノンフィクションにも描かれ、戦後日本の経済発展を支えた希代のバンカーとして、その功績と人物像は今なお語り継がれています。

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