一万田尚登

一萬田尚登：戦後日本経済を支えた「法王」

一萬田尚登（いちまだ ひさと）は、1893年（明治26年）に生まれ、1984年（昭和59年）に没した日本の銀行家、政治家です。正三位、勲一等という高い位階を持ち、その功績は多岐にわたります。特に、日本[[銀行]]総裁（第18代）と大蔵大臣（第58・59・60・63代）を歴任し、戦後の混乱期から高度経済成長期にかけて、日本経済の舵取りを担いました。

「法王」と呼ばれた日銀総裁時代

一萬田は、東京帝国大学卒業後、日本[[銀行]]に入行し、1944年には理事に就任しました。1946年、前任者の公職追放を受け、第18代日本[[銀行]]総裁に就任します。この時期の日本は、太平洋戦争後のインフレーションと深刻な資金不足に苦しんでいました。連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）の占領下という特殊な状況の中、金融政策を担う日本[[銀行]]が実質的な金融行政を掌握しており、一萬田はその中心人物として、強大な権力を持ちました。その鋭い眼光と威厳のある容貌から、ローマ教皇庁になぞらえられ「一萬田法王」と呼ばれるようになりました。

一萬田は、GHQとの信頼関係を築きながら、インフレ抑制と経済再建に取り組みました。政策委員会を日銀の下に置き、議長を兼任することで、金融政策における日銀の主導権を確立しました。しかし、大蔵省の権限拡大や通商産業省の台頭により、日銀の役割は徐々に薄れていきます。また、大蔵大臣時代には、次官との対立から更迭を試みるも、省内の反対にあい断念せざるを得ない場面もありました。

政治家としての活躍

1954年、一萬田は鳩山一郎内閣で大蔵大臣に就任し、政界入りを果たしました。非国会議員として最後の大蔵大臣です。その後、衆議院議員に5期当選し、大蔵大臣を3度にわたり務めました。大臣在任中は、デフレ政策を推進し、「富士山八合目ミルク論」として話題を呼びました。これは、デフレによる経済の苦境を、登山に例え、頂上まであと一息だと国民を鼓舞した言葉です。

物議を醸した発言

一萬田の発言は時に物議を醸しました。例えば、川崎製鉄（現JFEスチール）の千葉製鉄所建設に対しては、「ペンペン草が生える」と批判したと伝えられています。しかし、実際は、当時の経済情勢から過大な投資を懸念した発言であり、国際分業の視点から国内鉄鋼生産の必要性を問うたものでした。また、自動車工業についても、「国際分業の中では日本が自動車工業を育成するのは無意味である」と発言したとされています。

人物像

一萬田は、仏教徒でありながら、国際基督教大学（ICU）の設立に尽力し、多額の寄付金を集めました。また、27歳から頭髪を洗わず、ヘア・ローションで済ませるという独特の習慣を持っていました。さらに、敗戦後のGHQによる聖徳太子の紙幣廃止を阻止した人物としても知られています。

年譜

1893年 - 大分県大分郡野津原村にて誕生。
1918年 - 東京帝国大学法科大学卒業。
1918年 - 日本[[銀行]]入行。
1944年 - 日本[[銀行]]理事。
1946年 - 日本[[銀行]]総裁。
1951年 - サンフランシスコ講和会議日本全権代表。
1954年 - 日本[[銀行]]総裁辞任。
1954年 - 大蔵大臣（第1次鳩山一郎内閣）。
1955年 - 第27回[[衆議院議員総選挙]]当選。
1955年 - 大蔵大臣（第2次鳩山一郎内閣）。
1955年 - 大蔵大臣（第3次鳩山一郎内閣）。
1957年 - 大蔵大臣（第1次岸改造内閣）。
1958年 - 第28回[[衆議院議員総選挙]]当選。
1960年 - 第29回[[衆議院議員総選挙]]当選。
1963年 - 第30回[[衆議院議員総選挙]]当選。
1967年 - 第31回[[衆議院議員総選挙]]当選。
1984年 - 死去。


一萬田尚登は、激動の時代に、その卓越した手腕と強い信念で、日本経済の復興と発展に大きく貢献しました。その功績は、今日においても高く評価されています。

家族

妻：一万田誠子
長女：山口和子
二女：井上朝子
三女：一万田栄子

栄典

1964年：紺綬褒章
1965年：勲一等瑞宝章
1984年：正三位、勲一等旭日大綬章

主な著書

『人間と経済』(1950)
『霞町雑記 ミルク論その後』(1955)
『終戦後における金融政策の運営　一万田尚登元日銀総裁回顧録』(1978)

関連書籍

井上素彦『「非常時の男」一万田尚登の決断力』(2002)
* 阿部康二『一万田尚登伝 日本財界人物伝全集』(1955)

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