中島卯三郎

中島卯三郎とは

中島卯三郎（なかじま うさぶろう）は、1888年（明治21年）に現在の埼玉県で生まれ、1971年（昭和46年）に83歳でその生涯を終えた、日本の造園界における重要な人物です。彼は造園家、造園教育者、そして研究者という多様な顔を持ち、特に皇室の宮廷庭園に関わる業績と、戦後の大学における教育・研究活動で広く知られています。旧姓は高橋でした。

専門家への道と初期のキャリア

中島卯三郎は、1915年（大正4年）に東京帝国大学農科大学の林学科を卒業しました。翌年の1916年（大正5年）、彼は明治神宮造営局林苑課の技手として採用されます。これは、当時の東大教授であり造営局参与でもあった原煕の推挙によるもので、大屋霊城、狩野力といった錚々たる顔ぶれとともに、国家的な大事業である明治神宮の造営に若くして関わる貴重な機会を得ました。大正6年には造営局技手に昇任しています。

大正11年、中島は内務省からの派遣により欧米諸国を視察しました。さらに翌年には自費でも海外を訪れるなど、積極的に当時の先進的な造園技術や理論を学ぼうとする意欲的な姿勢が見られます。帰国後、造営局嘱託を経て、東京帝国大学大学院に進学。同時に大学の営繕課嘱託としても勤務し、1923年（大正12年）に発生した関東大震災により被災した大学構内の復旧作業に尽力しました。大学院は1925年（大正14年）に修了しています。

宮内省における皇室庭園への貢献

1926年（大正15年）、中島は宮内省内匠寮に入省し、工務課庭園係に配属されました。その後、主殿寮庭苑課へと移り、皇居をはじめとする宮廷の庭園の維持管理や修景といった実務に深く関わりました。長年にわたり皇室庭園の現場に携わる傍ら、彼は関連する膨大な資料、例えば古文書や図面などを丹念に収集・整理する作業も行い、研究者としての基盤を築きました。昭和18年から終戦までの期間は、内匠寮工務部庭苑課長として、戦時下という困難な状況の中で皇室庭園の管理を指揮しました。

教育・研究者としての転身と受賞

第二次世界大戦が終結した翌年の1946年（昭和21年）、中島は宮内省を辞任し、日本大学の教授に就任しました。これにより、彼は教育者として本格的に活動を開始し、大学で多くの後進の育成に力を注ぎました。教育活動と並行して、彼は自身の研究も深めました。特に、「御水尾天皇の行幸と桂御別業の完成年代」に関する歴史的な研究は高く評価され、1950年（昭和25年）に日本造園学会賞を受賞しています。これは、彼の造園史研究における重要な功績として位置づけられています。

貴重な庭園の保護活動

中島卯三郎の業績として特筆すべきは、日本の貴重な庭園遺産の保護に向けた積極的な行動です。1954年（昭和29年）、東京都が旧浜離宮恩賜庭園を南北に分断する形で幹線道路を通す都市計画を発表した際、彼はこれに強く反対の意を表明しました。造園専門誌である『造園雑誌』に「旧浜離宮恩賜庭園の保護に就て」と題する論文を発表し、浜離宮の歴史的・文化的価値と計画の問題点を指摘することで、広く世論に訴えかけました。この活動が大きな反響を呼び、結果として浜離宮内への幹線道路貫通計画を阻止することに成功しました。これは、研究者や実務家としてだけでなく、文化財保護の運動家としても彼が果たした大きな役割を示すものです。

後進への指導と多岐にわたる著作

日本大学を退職した後も、中島卯三郎は造園界への貢献を続けました。1960年（昭和35年）からは東京農業大学など複数の教育機関で非常勤講師を務め、その豊かな知識と経験を若い世代に伝え続けました。

彼が生涯に発表した著作や論文は非常に多岐にわたります。「皇城」のような皇居に関する詳細な研究書や、「造園の保護と管理」といった実践的な解説書、さらには「都市計画に就いて」といった社会的なテーマまで、幅広い視点から造園に関する深い考察を展開しました。また、桂離宮、修学院離宮、浜離宮、二条城、旧朝香宮邸など、日本を代表する名園に関する詳細な研究論文を多数発表しており、これらの文献は現代の造園史研究や庭園の実務においても重要な資料となっています。

結び

中島卯三郎は、明治後期から昭和中期にかけての日本の造園界において、宮内省での実務を通じて皇室庭園の維持・研究に多大な貢献をしました。また、戦後は大学の教壇に立ち、多くの後進を育成しました。さらに、浜離宮の保存運動に代表されるように、日本の貴重な庭園遺産の保護にも積極的に関与し、その多岐にわたる活動と深い学識は、現代の日本の造園界にも大きな影響を与え続けています。

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