中川横太郎

中川 横太郎（なかがわ よこたろう）

天保7年（1836年）に生まれ、明治36年（1903年）に没した中川横太郎は、明治時代の岡山県を舞台に多方面で活躍した社会活動家です。幼い頃の名は金次といい、晩年には「健忘斎」という号を用いていました。彼の近親者には、二十二銀行の設立発起人の一人であり、中国鉄道の初代社長を務めた杉山岩三郎が実弟におり、また杉山平助は甥にあたります。

生い立ちと命名の由来

横太郎は、岡山藩の儒学者であった中川亀之進の子として、現在の岡山市七番町にあたる地で誕生しました。幼少期から隣家に住む森下家の森下立太郎とは意見が合わず、ことあるごとに激しい議論を戦わせ、時には取っ組み合いの喧嘩に発展するほど反発し合っていたと伝えられています。この幼い頃からの対立経験が、後の彼自身の生き方に影響を与えました。元服を迎えるに際し、自らを「立（縦）」に対して「横」に生きると称し、「横太郎」という名を選んだとされています。

学びと才能

学問は漢学者の西薇山などに師事して修めました。しかし、彼は書物に向き合う机上の学習は苦手でしたが、一度耳にしたことは決して忘れないという並外れた記憶力を持っていました。このため、自身の学び方を謙遜して「耳学問」と評していました。一方で、学んだ知識の要点を捉え、それを分かりやすく噛み砕いて人々に伝える才能に恵まれていました。また、馬術にも長けており、若い藩士たちに馬術を教授することもあったといいます。

明治期の社会活動

明治維新後、明治4年（1871年）に岡山県の学務・衛生担当官に就任してからは、県の発展に大きく貢献しました。特に教育分野では、県内各地で小学校の設立と整備の重要性を熱心に説き、その普及に大きな功績を残しました。これに加えて、江戸時代に開設された庶民のための学校である閑谷学校の再興に尽力し、岡山薬学校（現在の関西高校）の設立にも関わりました。医療分野においても、今日の岡山大学病院の基礎を築いた岡山県公立病院の充実に力を注ぐなど、教育と医療の振興に幅広く貢献しました。さらに、公衆衛生の普及啓発にも独自の工夫を凝らしました。講談師の許可を得て、衛生の重要性に関する講談を自ら演じる独演会を開催し、分かりやすい語り口で衛生思想を広めました。

キリスト教との関わりと別離

中川横太郎は、岡山県における初期のキリスト教布教活動を積極的に支援した時期がありました。しかし、彼が愛人としていた炭谷小梅（後に岡山孤児院の副院長を務める人物）から、キリスト教の教えに基づき、倫理的な観点から男女関係のあり方について指摘を受けたことを機に、態度を硬化させます。激怒した彼は、キリスト教との関係を断ち、炭谷小梅とも別離したというエピソードが残されています。

奇行と哲学

その独特な言動や行動から、彼は奇人としても知られていました。洋装の際には常にポケットに懐中時計と菓子を忍ばせており、人前であろうと全く構わずに菓子を口にしていたという微笑ましいエピソードが伝えられています。また、榎本武揚や伊藤博文といった国の要人から届いた手紙に対しても、「相手の手紙の意味が分からないのだから、相手にも分からない手紙を返そう」と言って、記号のみを記した返事を送ったとされる奇妙な行動も伝えられています。晩年に用いた号「健忘斎」には、彼自身の人生哲学が込められていました。「どんなに苦労して大きな功績を上げたとしても、その苦労や手柄を自分自身はすぐに忘れ去らなければならない。決してそれを自ら誇ったり、鼻にかけたりするような無様な愚かな振る舞いはしない」という、彼自身の高潔な生き方への戒めであったと言われています。

晩年と死

明治32年（1899年）には、自身の「生前葬」を執り行うという、これもまた彼らしいユニークな行動に出ました。その際に寄せられた香典は、当時財政的に苦境に立たされていた山陽女学校へ全額寄付したと伝えられています。明治36年（1903年）、大阪で開催されていた第五回内国勧業博覧会を視察するために滞在中に病に倒れ、客死しました。享年67でした。

著作

中川横太郎は、以下の著作を残しています。

『文明最大元素・在欲論』
『辻説明・一大事』

もう一度検索