杉山平助

杉山 平助

杉山 平助（1895年6月1日 - 1946年12月21日）は、昭和初期を代表する文芸評論家の一人です。その生涯は極めて波乱に富み、評論活動もまた大きな変遷を辿りました。

複雑な出自と幼少期

平助は、父である実業家の杉山岩三郎と、芸妓であった母・宇野との間に、庶子として生まれました。父・岩三郎は元岡山藩士で、「備前西郷」と称されるほどの辣腕家であり、第二十二国立銀行や岡山紡績所の創立に関わり、後には中国鉄道の社長なども務めた人物です。しかし、平助は生後間もなく母を亡くし、大阪の八百屋の養子として育てられた後、7歳で東京の料理旅館「鯛屋」に引き取られます。そこでは、父が母の死後に身請けした若い芸妓に育てられることになります。

学生時代と病との闘い

明治35年、数えで8歳になった平助は、父の兄の子として、稲垣平助の名で慶應義塾幼稚舎に編入し、寄宿生活を送ります。明治44年、父・岩三郎を訪ねて認知を求め、正式に杉山平助となりました。慶應義塾大学部理財科予科に進学しますが、1913年に病のため中途退学。その後、南湖院で約5年間の療養生活を送ります。療養を終えた1918年には横浜税関の官吏となりますが、これも病が再発したため退職せざるを得ませんでした。

文壇への登場と「毒舌評論家」

度重なる病に苦しみながらも、平助は文学への道を志します。1925年、自伝的な要素を含む小説『一日本人』が生田長江に認められたことを機に、文芸評論を中心に執筆活動を開始。辛口の批評が評価され、菊池寛に見出されて『文藝春秋』で匿名時評を担当するなど、その存在感を増していきました。特に1931年からは、『東京朝日新聞』に「氷川烈」の筆名でコラムを連載し、人気を博します。初期は自由主義的な立場からの批評を展開していましたが、その文体は常に歯に衣着せぬものであり、同時代の人々からは「毒舌評論家」として知られるようになります。

思想の変遷と戦時下の活動

平助の思想は、次第に軍国主義的な傾向を強めていきます。1937年の日中戦争勃発後は中国に渡航し、戦地の状況を報告する記事を執筆しました。この際、北京在住の中国学者・中江丑吉を訪問しますが、下劣な話を持ち出して中江を憤慨させ、後に書簡で「下等の油虫」と酷評されるという一幕もありました。内閣情報部の漢口攻略戦を報じる「ペン部隊」の一員に選ばれるなど、戦争協力の姿勢を鮮明にしましたが、支持していた松岡洋右外相が失脚すると、文壇における居場所を失っていきます。

晩年と著書

文壇での影響力を失った後も執筆は続け、1943年に刊行された『文芸五十年史』はベストセラーとなりました。しかし、第二次世界大戦終結から間もない1946年、51歳でその生涯を終えました。

主な著書

『一日本人』（1925年）
『春風を斬る』（氷川烈名義、1933年）
『人物論』（1934年）
『絶望と享楽』（1936年）
『文学的自叙伝』（1936年）
『文芸五十年史』（1948年）

複雑な生い立ちから病との闘い、そして思想の大きな変遷を辿りながら、昭和初期の言論界に一石を投じ続けた杉山平助は、その「毒舌」と独自の視点で、当時の文壇に確かな足跡を残しました。

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