中村直勝

中村直勝：日本の歴史学に貢献した巨匠

中村直勝(1890年6月7日-1976年2月23日)は、大正から昭和時代にかけて活躍した歴史学者です。滋賀県大津市に生まれ、京都帝国大学で歴史学、特に古文書学を専攻しました。師である三浦周行氏の下で研鑽を積み、卒業論文では「皇室制度」をテーマに研究を行いました。

大学卒業後は大学院に進み、さらに古文書学の研究を深めました。1919年には第三高等学校で歴史学の講師となり、1920年には教授に就任。その後、1927年には京都帝国大学助教授として古文書学を担当し、南朝、荘園、皇室領、座、供御人といったテーマで精力的に研究を進めました。1946年には「荘園の研究」で京都大学より文学博士号を取得しました。

戦後、公職追放の期間中は、北朝の再評価や民衆文化、茶道史などの研究に没頭し、多くの著作を執筆しました。追放解除後には、1956年に京都女子大学教授に就任。1966年には大手前女子大学（現・大手前大学）の学長に就任し、教育者としても活躍しました。

中村直勝の研究は、近畿地方を中心に各地に残る古文書の調査・刊行に大きな貢献を果たしました。日本古文書学会の第2代会長も務め、市民への歴史学啓蒙活動にも熱心に取り組んだことから、学界への貢献は多岐に渡ります。

彼の研究分野は多岐に渡り、古文書学、南北朝時代史、荘園経済史、芸能史など、数々の成果を残しました。代表的な著書には『南朝の研究』『日本古文書学』『荘園の研究』などがあります。これらの著作は、現在でも歴史学研究において重要な参考文献として活用されています。

また、中村直勝は優れた教育者でもありました。彼の門下からは、清水三男、赤松俊秀、林屋辰三郎といった、古文書学を専門とする中世史研究者たちが輩出されました。彼らが日本の歴史学の発展に貢献したことは、中村直勝の教育者としての力量の高さを示しています。

中村直勝の功績は、単に歴史研究の成果にとどまりません。古文書という史料を丁寧に解読し、歴史的事実を明らかにするだけでなく、それらを広く社会に伝えることに尽力しました。彼は、歴史を専門家のみに留めるのではなく、一般市民にも分かりやすく伝えようとした、稀有な歴史学者でした。

多くの著作、学会活動、教育活動を通して、日本の歴史学、ひいては日本の文化の発展に貢献した中村直勝。その功績は、現代においても高く評価されています。彼の残した研究成果は、将来の歴史研究においても、重要な指針となるでしょう。

主な著書・編著

『後醍醐天皇関係十五官幣社御祭神御神徳記』（編、建武中興記念会、1939年）
『東大寺文書 第1 (東大寺百巻文書 第1-50巻)』（編、全国書房、1945年）
『中村直勝博士蒐集古文書』（中村直勝博士古稀記念会、1960年）
『兵法五輪書』（宮本武蔵 著、校註解説、講談社、1970年）
『平家物語 歴史対談』（村上元三共著、講談社、1971年）

参考文献

署名なし「故中村直勝先生略歴・主要著書」『史迹と美術』第46巻第3号、史迹美術同攷会、1976年
熱田公「中村直勝」『国史大辞典 10』（吉川弘文館、1989年）
岩井忠熊「中村直勝」『日本史大事典 5』（平凡社、1993年）
佐藤和彦「中村直勝」『日本歴史大事典 3』（小学館、2001年）
中田勇次郎「故学長中村直勝先生追悼のことば」『大手前女子大学論集』第10号、大手前大学・大手前短期大学、1976年
* 川勝政太郎（編）「故中村直勝先生略歴（故学長中村直勝先生追悼のことば）」『大手前女子大学論集』第10号、大手前大学・大手前短期大学、1976年

もう一度検索