中村秀之

中村 秀之

中村 秀之（なかむら ひでゆき）氏は、1955年生まれの日本の社会学者です。映像社会論および文化社会学を専門分野とし、映画をはじめとする視覚文化と社会構造、歴史との関連性を深く掘り下げる研究を行っています。現在は立教大学現代心理学部の映像身体学科で教授を務め、研究活動と教育の両面で貢献しています。

来歴

静岡県に生まれた中村氏は、学術的な探求の道を歩みました。早稲田大学第一文学部で日本史学を専攻し卒業した後、東京大学文学部にて社会学専修課程を修了しました。さらに学びを深めるため、同大学院社会学研究科に進学し、1995年に博士課程を単位取得の上、満期退学しています。

研究者としてのキャリアは、1997年に桃山学院大学社会学部で専任講師として始まりました。その後、2000年には同大学の助教授に昇任し、教育と研究に携わりました。2002年には、アメリカ合衆国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校（UCLA）映画・テレビ・デジタルメディア学部で客員研究員を務め、国際的な視点からの研究経験を積みました。これらの経験を経て、2007年より立教大学現代心理学部映像身体学科の教授として、現在に至るまで教鞭をとっています。

研究活動と業績

中村氏の研究の核心は、映像がいかに社会や文化、歴史と深く結びついているかを解き明かすことにあります。特に映画を主要な分析対象とし、その表現形式や物語が生まれる社会的・歴史的背景、そしてそれが観客や社会に与える影響について、文化社会学的な手法を用いて考察しています。

初期には、ハードボイルドな作風で知られるフィルム・ノワールという映画ジャンルを取り上げ、それが近代性（モダニティ）といかに交渉してきたのかを詳細に分析しました。また、日本映画史にも深い洞察を示しており、第二次世界大戦後の占領期からポスト占領期にかけての日本映画が、敗戦という歴史的経験や社会の変化をどのように反映してきたのかを研究しています。特攻隊映画のような、日本の特定の歴史的出来事と結びついたジャンルにも注目し、それが持つ「哀悼劇」としての側面を読み解くなど、映像と歴史、集合的記憶の複雑な関係を探求しています。

氏の著作は多岐にわたり、それぞれの作品が映像社会学・文化社会学における重要な貢献を示しています。

主要単著

『映像/言説の文化社会学 フィルム・ノワールとモダニティ』（岩波書店、2003年） - フィルム・ノワール研究を通してモダニティを論じる。
『瓦礫の天使たち ベンヤミンから〈映画〉の見果てぬ夢へ』（せりか書房、2010年） - ヴァルター・ベンヤミンの思想なども参照し、映画の持つ可能性を探る。
『敗者の身ぶり ポスト占領期の日本映画』（岩波書店、2015年） - 敗戦後の日本映画に刻まれた社会や人々の姿を分析する。
『特攻隊映画の系譜学 敗戦日本の哀悼劇』（岩波書店、2017年） - 特攻隊を扱った映画の系譜をたどり、敗戦後の日本社会における哀悼のあり方を考察する。
『暁のアーカイヴ 戦後日本映画の歴史的経験』（東京大学出版会、2019年） - 戦後日本映画を歴史的な経験のアーカイヴとして捉え、その意義を探求する。

主な共編著・共著

『映画の政治学』（長谷正人と共編著、青弓社、2003年）
『アンチ・スペクタクル 沸騰する映像文化の考古学』（長谷正人と共編訳、東京大学出版会、2003年） - 映像文化が持つ多層的な側面に迫る。
『甦る相米慎二』（木村建哉・藤井仁子と共著、インスクリプト、2011年） - 映画監督・相米慎二の再評価を試みる。

主な翻訳

* ジョン・マーサー、マーティン・シングラー『メロドラマ映画を学ぶ ジャンル・スタイル・感性』（河野真理江と共訳、フィルムアート社、2013年） - 海外のジャンル研究を紹介する。

これらの著作や、CiNiiなどで参照できる多数の論文を通して、中村氏は映像研究、特に映画と社会・歴史・文化の関係性という分野において、日本の学界に重要な知見を提供し続けています。立教大学での教育活動も含め、今後のさらなる活躍が期待される社会学者です。

もう一度検索