中村英夫 (洋画家)

中村 英夫（なかむら ひでお、1929年 - ）は、多岐にわたる分野で活躍した日本の芸術家です。特に洋画家、絵物語作家、そして挿絵画家として知られ、日本の豊かな自然や風景を写実的な筆致で描き出しています。

幼少期と初期のキャリア

中村英夫は1929年、現在の東京都中央区入船に生まれ、そこで少年時代を過ごしました。実家は製本工場を営んでおり、製本師・装丁家として名高い中村重義の三男にあたります。彼の名付け親は、書物研究家であり「書物展望社」を主宰した齋藤昌三でした。

明治大学政経学部を卒業後、一年間連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）に勤務しました。その後、実家の製本工場との縁を通じて、創業間もない秋田書店に入社します。ここでは社員として働きながら、独学で絵の技術を磨き、『譚海』誌に絵物語を発表するようになりました。この頃から社外からの制作依頼が増え始め、秋田書店の社長から独立を勧められたことを機に退社。専業の絵物語作家としての道を歩み始めます。また、この時期には元多摩美術大学教授で第3回安井賞を受賞した中本達也と共に、舞台美術の仕事にも携わりました。

絵物語・挿絵画家としての活動

昭和の時代、漫画の隆盛と共に絵物語が次第に衰退していく中で、中村は活動の軸を挿絵画家へと移します。山川惣治など、当時の著名な絵物語作家や挿絵画家たちとの幅広い交流がありました。

特に注目されるのは、漫画原作者である梶原一騎とのコンビです。彼は梶原作品の挿絵を数多く手がけ、多くの少年漫画誌でその絵が親しまれました。主な掲載媒体は、小学館の刊行する世界名作シリーズをはじめ、朝日ソノラマ、講談社、集英社、ポプラ社といった出版社の児童向け単行本、そして当時の人気少年週刊誌である

『少年』
『少年サンデー』
『少年マガジン』
『少年キング』
* 『少年チャンピオン』

さらに、『明星』や『平凡』といったアイドル雑誌にも作品を提供しました。彼の挿絵は、物語の世界観を豊かに表現し、多くの読者を魅了しました。中でも特筆すべき功績として、1969年に創刊された集英社の『週刊少年ジャンプ』の記念すべき第一号の表紙絵を担当したことが挙げられます。これは、日本の漫画史における重要な出来事であり、その創刊号の「顔」を描いたことは、彼の挿絵画家としての影響力の大きさを物語っています。

洋画家への転身と現在の活動

1970年代に入ると、中村英夫は洋画家としての活動を本格化させます。写実的な画風を追求し、北海道や信州をはじめとする日本の各地の美しい風景、特に渓流、海、民家、そして富士山などを主要な題材として描くようになります。

1972年からは、「海と山の空展」、「精鋭作家展」、「新自然展」といった自らが主宰あるいは参加する展覧会を精力的に開催し、洋画家としての作品を発表し続けました。また、1975年には自然協会を設立するなど、芸術を通じた社会的な活動にも関わっています。現在は日本美術家連盟の会員でもあります。

現在に至るまで、彼は全国各地の主要な百貨店、例えば小田急、東武、そごう、三越、東急、西武、松坂屋などで精力的に個展を開催しています。これらの個展を通じて、彼の描く日本の美しい風景画は多くの人々に届けられ、その写実的で温かみのある表現が高く評価されています。長年にわたり様々な分野で活躍してきた中村英夫ですが、今後挑戦したい新たな分野として、アニメーション制作への強い意欲も示しています。彼の飽くなき探求心は、これからも見る者を魅了し続けることでしょう。

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