中条右近太夫

中条右近太夫：水不足に苦しむ村を救った義民

中条右近太夫（生没年不詳 - 1626年）は、江戸時代初期に遠江国（現在の静岡県西部）で活躍した農民です。当時、遠江国小笠地域は、開墾が進んだ一方で水不足に悩まされていました。特に右近太夫が住んでいた嶺田村は、日照りが続くと農作物の生育に大きな影響が出ていました。

水路建設への決意

右近太夫は、この状況を打開するため、隣村から用水路を引くことを決意します。しかし、当時は隣村への自由な出入りが禁じられていたため、右近太夫は奇策を講じます。彼は家族と離縁し、自らが罪に問われても家族に累が及ばないように配慮した上で、精神を病んだふりをして、人目を欺きながら用水路の測量を密かに進めていきました。

幕府への直訴と処刑

測量を終え、具体的な建設計画を立てた右近太夫は、横須賀城の城主に何度も用水路建設の許可を願い出ますが、全く相手にされませんでした。そこで彼は、領主の許可を得ずに幕府に直接訴え出る「越訴」という手段に出ます。これは当時、重罪とされていました。しかし、右近太夫は村を救うため、処刑されることを覚悟の上で、幕府に直訴しました。

彼の訴えは、徳川家康ゆかりの地に関わるものであったため、幕府は用水路建設を認めることになります。しかし、越訴の罪により、右近太夫は1626年に処刑されました。

その後

右近太夫の死後、彼の遺志は受け継がれ、1678年頃に嶺田用水が完成しました。この用水路は現在でも使用され、地域の人々の生活を支え続けています。また、右近太夫は、その功績から義民として称えられ、井之宮神社の祭神として祀られています。

現代への影響

右近太夫の物語は、水不足に苦しむ人々の生活を救うために、命を懸けた人物の物語として、現代でも語り継がれています。彼の功績は、地域社会の発展に大きく貢献しただけでなく、人々の心を動かすものでもあります。

JR東海中央新幹線の建設に伴う大井川の水量減少問題が政治問題化した際には、右近太夫の故事が引き合いに出されるなど、彼の存在は、水に対する地域の意識を語る上で欠かせないものとなっています。

まとめ

中条右近太夫は、水不足という困難に立ち向かい、私利私欲のためではなく、村のために命を懸けて用水路建設を成し遂げた偉人です。彼の勇気と行動は、多くの人々に感動と勇気を与え続けています。彼の功績は、郷土の歴史を語る上で、決して忘れてはならないものと言えるでしょう。

彼の精神は、現在においても、困難に立ち向かう人々の模範となっています。

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