越訴

越訴（おっそ）とは

越訴とは、法で定められた正規の手続きを踏まずに行う訴訟行為のことです。再審を求める場合などに、定められたルートを無視して上位の機関に訴え出る行為を指します。合法・非合法は問わず、訴えを起こす行為そのものを越訴と呼びます。しばしば直訴と同一視されますが、本来は異なる性質を持つものです。

直訴との違い

直訴は、最高権力者個人に対して直接訴え出る行為です。一方、越訴は上級の訴訟機関に対して訴え出るものであり、訴える対象が異なります。しかし、両者が混同されることも多く、特に近世においては越訴の手段として直訴が用いられることもありました。

古代における越訴

律令制下では、訴訟には定められた手順がありました。地方では郡司から国司、そして太政官へ、京では京職から刑部省、そして太政官へと段階を踏んで訴え出る必要がありました。この手順を無視して訴え出ることは越訴とされ、笞打ち40回の刑罰が科せられました。

しかし、訴訟を担当する役所が裁判を適切に行わなかったり、上訴を妨害した場合は、例外的に越訴が認められることもありました。また、唐の法律では役人の乗る車に対して直接訴えることは禁じられていましたが、日本の律令には同様の規定があったかどうかは不明です。

中世における越訴

中世に入ると、越訴は再審制度として導入されることになります。鎌倉幕府は、御成敗式目で、名主や百姓が許可なく幕府に直接訴え出ることを禁じる一方で、再審制度としての越訴を認めました。

再審には、訴訟機関の不正を理由とする「庭中」と、判決内容の誤りを理由とする「越訴」の2種類がありました。越訴は当初、引付が管轄していましたが、後に専門機関として越訴方が設置されました。越訴方では、越訴が正当と判断された場合、再度裁判が行われました。

しかし、得宗の権力が強まると、越訴方は一時廃止されたり、越訴に提訴期限が設けられたりするなど、その制度は変化していきます。室町幕府では越訴奉行などが置かれましたが、次第に他の機関に統合されて廃止されました。戦国時代には、分国法によって越訴自体が禁止される例も見られました。

『日葡辞書』における越訴と直訴

『日葡辞書』では、越訴は「一旦却下された訴訟を再び提起すること」、直訴は「国王や大身の主君に直接訴えること」と定義されています。ここからも、両者の違いが明確に示されています。

近世における越訴

近世では、越訴は訴訟手続きを乱す違法行為一般を指すようになりました。幕府は、全ての訴訟を法手続きに沿って行わせるため、私的な争いとともに越訴を禁止しました。訴状は村役人や町役人を通じて提出し、幕府に訴える場合は領主の添簡が必要とされました。添簡がない訴えは違法とされました。

しかし、実際には添簡が発行されることは少なく、訴えを起こすことすら困難な状況でした。そのため、人々は駕籠訴、駆込訴、捨訴、張訴などの直訴を利用して越訴を行うようになりました。時には、一揆や打ちこわしなどの強硬手段に訴えることもありました。

この結果、越訴と直訴が混同され、「越訴＝直訴」という観念が広く定着することになりました。ただし、越訴や直訴そのものの刑罰は軽いものでしたが、徒党を組んだり、一揆などの実力行使に及んだ場合は、重い刑罰が科せられました。

江戸幕府の対応

幕府は、越訴を禁止する一方で、下級役人の不正を放置することもできませんでした。そのため、代官の不正の場合には、例外的に直訴による越訴が認められました。また、巡見使への訴えは処罰対象外とされたり、目安箱が設置され、箱訴という合法的な越訴の手段も用意されました。

このように、越訴は時代によってその意味合いや制度が大きく変化してきました。古代から近世にかけて、様々な形で社会の矛盾や人々の訴えを体現してきたと言えるでしょう。

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