中根雪江

中根雪江：幕末維新期の福井藩を支えた儒学者と改革者

中根雪江（なかね ゆきえ、文化4年7月1日（1807年8月4日）- 明治10年（1877年）10月3日）は、福井藩士として、そして明治新政府の役人として活躍した、幕末から明治時代を駆け抜けた稀有な人物です。諱は師質（もろかた）、通称を栄太郎、靱負（ゆきえ）と称し、晩年には松陰漁翁と号しました。

雪江は、文化4年（1807年）、700石取りの福井藩士・中根孫右衛門の長男として生まれました。天保元年（1830年）、家督を継承すると、藩の儒学者から学び、その後江戸に遊学し、平田篤胤に師事して国学を修めました。

転機は天保9年（1838年）に訪れます。第15代藩主・松平斉善の急逝を受け、12代将軍徳川家慶の意向により、その弟である松平慶永（春嶽）がわずか11歳で藩主となりました。雪江は慶永の教育係として重用され、国学を教授。慶永は、雪江から学んだ本居宣長や平田篤胤らの思想を深く理解し、独自の政治理念を確立していきます。

雪江は慶永を支え、藩政改革の中心人物として活躍しました。守旧派を排し、改革派の家老らと協力して、藩財政の立て直しや軍制改革、さらに牛痘による天然痘予防の普及にも尽力しました。その改革には、藩士の俸禄減額や知行制廃止といった大胆な措置も含まれており、一時、反対派の反発を受け、罷免される苦境も経験しますが、後に復帰し、改革を継続しました。

慶永が幕政に参画すると、雪江は慶永の参謀として幕府にも影響力を及ぼします。ペリー来航時には、攘夷論者であった慶永に開国を勧めるなど、時代を先読みした進言を行っていました。安政の大獄で慶永が失脚すると雪江も一時的に職を失いますが、慶永の復帰後は、公武合体政策に携わり、徳川家茂の上洛にも尽力しました。

晩年は、政治活動の記録である『昨夢紀事』などの著作活動に多くの時間を費やしました。また、坂本龍馬と会談し、慶永の更なる活躍を期待されたこともありました。しかし、上京派との対立もあり、一時蟄居を余儀なくされます。

明治維新後、雪江は新政府の役人として仕えますが、まもなく免職となり、故郷福井で隠居生活を送ります。勝海舟と親交を深めながら、『再夢紀事』『丁卯日記』『戊辰日記』『奉答紀事』など多くの著作を残し、釣りを愛好するなど静かな日々を過ごしました。

明治10年（1877年）、東京で脚気のため71歳で生涯を閉じました。その功績は、福井藩のみならず、日本の近代化にも貢献したと言えるでしょう。現在も、福井城近くの神明神社には雪江の像が建立され、その名が人々に記憶されています。

主な著作

『昨夢紀事』
『再夢紀事』
『丁卯日記』
『戊辰日記』
『奉答紀事』

参考文献

長野栄俊 (2023.3). “近代における越前松平家の史書編纂 －「昨夢紀事」「続再夢紀事」などの伝存写本をめぐって－”. 福井県文書館研究紀要 (福井県文書館) 20.

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