中行説

中行説（ちゅうこう えつ/ちゅうこう せつ）

中行説は、前漢時代の宦官であり、後に匈奴の老上単于の側近として仕えた人物です。彼の生涯は、漢と匈奴という二つの勢力の間で翻弄され、最終的には漢に災いをもたらすという特異なものでした。

生涯

燕国出身の中行説は、宦官として漢に仕えました。当時の漢の文帝は、匈奴との間に和親政策を敷いており、その一環として皇族の女性を単于に嫁がせることになりました。その際、女性の随行員として宦官が選ばれることになり、中行説が選ばれたのです。

匈奴への派遣は、中行説にとって不本意なものでした。彼はこの命令を拒否しましたが、漢朝廷は強制的に彼を匈奴へ送り込みました。この仕打ちに対し、中行説は漢朝廷に深い恨みを抱き、「必ずや、私は漢にとって災いを為す者になるであろう」と誓ったと伝えられています。

匈奴に到着後、中行説は老上単于に謁見し、漢との決別と匈奴への帰順を願い出ました。老上単于は彼の才能を認め、側近として迎え入れました。中行説は、匈奴にとって漢からの贈り物を受け取ることは良くないことだと説き、漢からの略奪を推奨しました。また、単于の側近に文字を教え、人や家畜の数を把握させ、国政の基礎を築きました。さらに、匈奴が漢に送る文書の様式や文言を、匈奴が上位になるように改めさせました。

中行説は、漢からの使者に対しては、漢朝廷への批判を繰り返しました。使者が反論しても一切聞き入れず、徹底的に漢を侮辱しました。彼の行動は、匈奴の対漢強硬姿勢を煽り、漢への侵攻を再び深刻化させる要因となりました。

老上単于の死後、中行説は後継者の軍臣単于にも仕え、引き続き匈奴のために尽力しました。彼の具体的な活動は史料に乏しいものの、匈奴の勢力拡大に貢献したことは疑いありません。

中行説の生涯は、漢への復讐心と匈奴への忠誠心に彩られたものでした。彼は、自らの知識と才能を駆使して匈奴を強化し、結果として漢に大きな災いをもたらしました。彼の存在は、漢と匈奴の関係を複雑化させ、両国の対立を激化させる一因となったと言えるでしょう。

参考文献

司馬遷著『史記』巻110 匈奴列伝
班固著『漢書』巻94上 匈奴伝上

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