中西嘉宏

中西嘉宏

日本の政治学者、中西嘉宏（なかにし よしひろ）氏は、1977年に兵庫県尼崎市に生を受けました。現在、京都大学東南アジア地域研究研究所の准教授として教鞭を執り、研究活動に邁進しています。氏の専門は東南アジア地域研究および比較政治学であり、特にミャンマー（旧称ビルマ）における政治と軍隊の関係、そして近年深刻化しているロヒンギャ問題に関する深く広範な研究で、国内外から高い評価を得ています。

人物と経歴

中西氏は、学究の道を究めるべく研鑽を重ねました。2001年に東北大学法学部を卒業した後、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科に進学します。同大学院の博士課程を2007年に修了し、博士（地域研究）の学位を取得しました。博士論文のテーマは「ネー・ウィン体制期ビルマにおける政軍関係 1962-1988」であり、これは氏のライフワークとも言えるミャンマー研究の出発点となりました。

博士課程修了後、中西氏は研究者としてのキャリアを積み上げていきます。まず、日本貿易振興機構（ジェトロ）のアジア経済研究所で研究員として活動し、実証的な地域研究の経験を深めました。その後、アメリカ合衆国のジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院（SAIS）において客員研究員を務め、国際的な視野を広げました。これらの貴重な経験を経て、2013年に母校である京都大学に戻り、東南アジア研究所の准教授に就任しました。2017年には研究所の名称が変更され、京都大学東南アジア地域研究研究所の准教授となり、今日に至ります。

研究と業績

中西氏の研究は、一貫して東南アジア、とりわけミャンマーの政治体制の深層に光を当てることにあります。特に、長期間にわたる軍政がミャンマー社会にいかに根を下ろし、国家と軍隊の関係がどのように形成されてきたのかを丹念に分析しています。初期の研究はネー・ウィン体制下の政軍関係に焦点を当てていましたが、現在はより現代的な課題にも目を向け、民主化への移行プロセスや、複雑な民族問題、特に国際社会の注目を集めるロヒンギャ危機についても精力的に研究を進めています。

氏の優れた研究成果は、数々の著作として発表されています。

主な著作には以下のようなものがあります。

『軍政ビルマの権力構造――ネー・ウィン体制下の国家と軍隊1962－1988』（京都大学学術出版会、2009年）
Strong Soldiers, Failed Revolution: The State and Military in Burma, 1962-88 (National University of Singapore Press & Kyoto University Press, 2013) - 上記著作の英語版
『ロヒンギャ危機――「民族浄化」の真相』（中公新書、2021年）
『ミャンマー現代史』（岩波新書、2022年）

これらの著作の中でも、2021年に刊行された『ロヒンギャ危機――「民族浄化」の真相』は、ミャンマーにおけるロヒンギャ問題の本質と背景を深く掘り下げた画期的な研究として大きな反響を呼びました。この著作は、その学術的な厳密さと社会的な意義が高く評価され、同年にサントリー学芸賞（思想・歴史部門）とアジア・太平洋賞という、日本の学術界・言論界における権威ある二つの賞を同時に受賞するという快挙を達成しました。

中西氏の研究活動は論文としても多数発表されており、CiNiiなどでその業績を確認することができます。また、積極的に情報発信も行っており、京都大学のウェブサイトやX（旧Twitter）などを通じて、最新の研究成果やミャンマー情勢に関する見解を知ることができます。

中西嘉宏氏は、緻密なフィールドワークと文献研究に基づいた分析を通じて、理解が困難とされるミャンマーの政治状況を解き明かし、東南アジア地域研究、比較政治学の分野に多大な貢献を続けています。特に人道危機ともいえるロヒンギャ問題に関する研究は、その解決に向けた国際的な議論にも重要な示唆を与えるものです。今後のさらなる研究活動が期待される、日本の代表的な東南アジア研究者の一人です。

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