中西英敏

中西英敏：柔道界の鉄人、世界へ羽ばたいた道

中西英敏（なかにし ひでとし）は、1958年6月3日生まれの日本の柔道家。講道館8段。現役時代は71kg級の選手として活躍し、1983年の世界選手権大会で金メダルを獲得。全日本選抜体重別選手権大会でも2度の優勝を飾るなど、その名を轟かせました。身長168cm。

現在は東海大学体育学部教授および柔道部部長として、後進の育成に尽力しています。また、妻の中西美智子（旧姓：西條）も柔道家であり、1981年と1985年の全日本女子体重別選手権大会で優勝しています。

福岡での原点

福岡県糟屋郡宇美町出身。代々村相撲で大関を張った家系に生まれ、幼少の頃から相撲に親しんで育ちました。小学校4年生の時に地元の若楠会道場に入門したことがきっかけで柔道を始め、宇美中学校で本格的に柔道に打ち込みます。中学時代の練習はスパルタそのもので、高校生顔負けの厳しい内容だったと言います。

中西は当時を振り返り、「いつ辞めようかと考えるほどだったが、必死に稽古に打ち込んでいるうちに上級生になっていた」と語っています。

高校進学の際には、地元の県立高校の柔道部顧問から誘いを受けますが、まさかの不合格。しかし、その顧問から東海大付属五高を勧められ、父親の後押しもあり同校に進学を決意します。

東海大五高での出会い

実家から通えない距離ではなかったものの、柔道に専念するために寮生活を選んだ中西にとって、指導者の松本安市との出会いは大きな転機となりました。

入寮してきた中西に、松本は「体が小さいなら、人の2倍も3倍も技を掛けなければならない。技を掛けまくる練習を続ければ、世界も夢じゃない」と語りかけました。この言葉が中西の心に火をつけ、柔道に明け暮れる高校生活の始まりとなりました。

中学時代の厳しい練習に耐えてきた中西にとって、東海大付属五高での猛練習は苦ではありませんでした。柔道で拾ってもらったという使命感と、文武両道を旨とする環境が、彼の成長を大きく後押ししました。

ある日、肘の怪我で得意の背負投が出せなくなった中西は、左組からの変則技を試みます。すると、偶然にもその技が綺麗に決まり、相手を投げ飛ばすことに成功。松本はこの技を「袖釣込腰」と教え、岡野功も得意としていたことを伝えました。中西はその後、柔道部で一番体重の重い部員を相手に、この技を徹底的に練習。やがて袖釣込腰は、彼の必殺技へと昇華していきました。

東海大学での飛躍

1977年4月に東海大学に進学すると、柔道部監督の佐藤宣践から目標を持つように指導されます。中西は、(1)71kg級で日本一になる、(2)大学の団体戦レギュラーを獲得する、(3)全日本選手権大会に出場する、(4)世界選手権大会や夏季五輪で優勝する、という4つの目標を掲げました。

当時の東海大学は、山下泰裕や香月清人、柏崎克彦といった錚々たるメンバーが揃い、練習環境にも恵まれていました。佐藤の「力必達」という言葉を胸に、中西は一切妥協を許さず稽古に打ち込みます。乱取り稽古では重量級の相手に積極的に挑み、腕力とスタミナを鍛え上げました。その姿から、他の部員からは「鉄人」と恐れられたと言います。

大学3年次にはソ連国際大会の日本代表に選ばれ、初めての国際大会に出場。決勝戦では、前年の世界選手権大会銅メダリストであるタマズ・ナムガラウリに敗れましたが、準優勝という結果を残し、世界と戦う手応えを掴みました。

大学在学中に4つの目標のうち1つしか達成できなかった中西は、1981年に東海大学大学院に進学。1年先輩の山下泰裕と共にトレーニングを積みました。1982年には全日本選手権大会に出場し、念願の初戦突破を果たします。同年9月の全日本選抜体重別選手権大会で優勝を飾ると、翌年には講道館杯で準優勝、全日本選抜体重別選手権大会で連覇を果たし、同階級の第一人者として、世界選手権大会の日本代表に選ばれました。

世界選手権大会では、3年前に敗れたナムガラウリとのリベンジを果たし、決勝戦ではモスクワ五輪金メダリストのエツィオ・ガンバを破って優勝。大学入学時に掲げた4つの目標を、6年かけて全て達成しました。

指導者としての新たな道

1984年のロサンゼルス五輪では5位に終わった中西は、その後、国際武道大学の柔道部ヘッドコーチを経て、東海大学柔道部の副監督、監督を歴任。一時は低迷期を迎えたチームを再建し、2004年には全日本学生優勝大会で8年ぶりの優勝を果たしました。

2008年から2014年まで、東海大学は全日本学生優勝大会で前人未到の7連覇を達成。中西は、現役時代の経験を活かし、後進の指導に情熱を注いでいます。

現在は東海大学体育学部武道学科教授兼柔道部部長として、多くの学生を指導する傍ら、全日本柔道形競技大会にも出場し、古式の形を披露しています。

中西英敏は、柔道家として、指導者として、その名を歴史に刻み続けています。

もう一度検索