中越信号場

中越信号場：石北本線に消えた駅舎の記憶

北海道上川郡上川町に位置する中越信号場は、かつては駅として賑わいを見せ、その後信号場へと姿を変えた歴史を持つ施設です。現在では静寂に包まれたこの地には、往時を偲ばせる痕跡が僅かに残されています。

忘れられた駅舎の物語

1929年、石北西線の延伸開業に伴い中越駅として誕生しました。それから幾多の時代変遷を経て、1975年には無人駅となり、貨物・荷物の取扱いも廃止。1983年にはCTC導入により運転無人化も実現しました。その後、利用客の減少に伴い、2001年、旅客扱いを終了。中越信号場へと生まれ変わりました。

その歴史の中で、1964年には駅舎と構内の改修・拡充が行われ、地域住民の生活に密着した存在であったことが伺えます。また、1932年の石北線全通を記念し、自然石に彫刻された記念碑が駅舎脇に建立されたというエピソードも残されています。この記念碑は、当時の地域住民と鉄道関係者にとって、中越駅がいかに重要な存在であったかを物語っています。

地名の由来：歴史とアイヌ文化の痕跡

中越という地名は、1892年に設置された官設駅逓、中越駅逓所に由来します。この駅逓所は、留辺志部川沿いの「越路」という地名と、石狩北見国境（北見峠）の中間地点に位置していたことから名付けられました。「越路」という地名は、アイヌ語の「ルペㇱペ（ru-pespe）」（道・下る・もの＝峠道）に由来し、この地域の歴史とアイヌ文化の深い繋がりを示しています。

興味深いことに、現在の「中越」という字名は、1938年の字名改正で「茅刈別（ちかるべつ）」から変更されました。「茅刈別」は、留辺志部川に合流する支流チカルベツ川のアイヌ語名「チカㇽペッ（ci-kar-pet）」（われら・作る・川）に由来する地名です。中越という地名は、単なる駅名以上の、歴史と文化が織りなす複雑な物語を秘めていると言えるでしょう。

信号場の構造と周辺環境

中越信号場は、かつて島式ホームを備えた1面2線の構造で、側線1本を有していました。旅客扱いの廃止に伴い、ホームは撤去されています。現在では、かつての賑わいとは対照的に、付近には人家はなく、国道が並走するのみという静かな環境となっています。しかし、「第二次中越官設駅逓所跡」の碑が、この地の歴史を静かに語り継いでいます。

終わりに

中越信号場は、近代化の波の中で変化を遂げた、北海道の地方鉄道史の一断面を示す貴重な存在です。かつての賑やかな駅舎の姿は消えましたが、その歴史と物語は、信号場という新たな形で静かに息づいています。訪れる者は、この地に残された痕跡から、過ぎ去った時を感じ、歴史に思いを馳せることができるでしょう。 静かに佇む信号場は、過ぎ去った時代への郷愁を呼び起こす、タイムカプセルのような存在なのです。この地に足を運ぶことで、北海道の秘境と歴史の深淵に触れることができるでしょう。

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