中野の都こんぶ

中野の都こんぶとは

中野の都こんぶは、中野物産株式会社によって製造・販売されている、日本を代表する昆布菓子の一つです。その特徴は、柔らかく、独特の甘みと酸味を併せ持った風味にあります。主原料には、高品質なマコンブが使用され、酢と甘味料によって独自の味わいに仕上げられています。商品名の「都こんぶ」は、創業者であり開発者でもある中野正一氏の出身地である古都・京都に由来して名付けられました。

製造工程と秘密の粉

都こんぶは、大阪府貝塚市にある中野物産の二色の浜工場で丁寧に製造されています。使用される真こんぶは、創業当初から一貫して北海道函館沿岸で養殖されたものに限定されています。工場に運び込まれた昆布は、まず酢と調味液に漬け込まれる「荒漬け」「上漬け」という二段階の工程を経ます。これらの漬け込み作業の間で、作業員の手作業によって昆布の大きさが均一に整えられます。上漬けが完了し裁断された昆布には、都こんぶのアイデンティティとも言える、アミノ酸由来の甘味料を含んだ白い粉がまぶされます。この後、機械によるプレスと裁断を経て、おなじみの小箱に詰められて完成となります。

「魔法の粉」の物語

都こんぶの表面にまぶされている白い粉は、しばしば「魔法の粉」と呼ばれ、その独特の甘みを生み出しています。開発初期には、昆布内部に浸透しにくい砂糖の代わりにチクロという甘味料が使用されていました。しかし、当時アメリカでチクロに発がん性があるとの誤解が生じたことを受け、日本でも1969年にチクロ添加食品が回収・販売禁止となります。これにより都こんぶの味は変化し、売り上げが激減するなど、中野物産は大きな打撃を受けました。会社が苦境に立たされる中、救世主となったのが1976年に発見されたアミノ酸由来の新しい甘味料でした。この甘味料を含む粉をまぶす製法が採用されることで、従来の味に近い風味を再現することが可能になりました。見た目は、昆布に含まれるマンニットという成分が結晶化した粉が付着していたため、ほとんど変化がありませんでした。この変更により製造コストは増加しましたが、チクロ使用禁止以前の1969年よりも売り上げは大きく回復しました。

誕生秘話と初期の歩み

中野の都こんぶのルーツは、創業者の若き日に遡ります。尋常小学校を卒業後、堺の昆布問屋で丁稚奉公をしていた中野正一氏は、商品にならない昆布の切れ端をおやつ代わりに食べていました。この時食べていたのは、柔らかくするために酢に漬けられた加工途中の昆布でした。この経験から、「酢漬けの昆布に甘みを加えて売り出せないか」とひらめきを得ます。彼は奉公中から砂糖やサッカリンなど様々な甘味料を使った実験を重ね、1931年に独立して「中野商店」を創業すると、黒蜜入りの酢に漬けた、都こんぶの原型となる「酢昆布」を発売しました。当初、この酢昆布は形も昆布の切れ端そのままで、黒蜜の風味も今とは異なっていたと考えられます。中野氏は天王寺や松屋町の菓子問屋を通じて駄菓子屋に流通させ、当時人気だった紙芝居屋にも積極的に売り込みを行いました。

戦後の発展と赤い小箱の誕生

戦時中に中野氏が出征したため、一時製造と販売は中断されますが、1946年頃の帰国後、都こんぶは新たな展開を迎えます。菓子類が不足していた終戦直後の混乱期において、都こんぶは新たな販路を開拓します。当時の主要な娯楽の場であった映画館や芝居小屋の売店に置かれた都こんぶは予想以上の売り上げを記録しました。この成功を機に、それまで単に酢昆布として販売されていた商品に、消費者へのアピールとして「都こんぶ」という正式な商品名が付けられました。さらに、1953年には鉄道弘済会が直営していたキヨスクへの販路拡大を目指し、中野物産の東京営業所が開設されます。キヨスクの店頭でひときわ目を引くパッケージとして、現在の象徴的な赤い小箱に桜の花と白文字で「中野の都こんぶ」と書かれたデザインが採用されました。これは売店での陳列効果と、持ち歩きやすい手のひらサイズであることから、爆発的なヒットに繋がります。その成功にあやかろうと、他の酢昆布メーカーも赤い箱を採用するほどでした。

知名度向上のための戦略

商品名の定着と並行して、中野物産は都こんぶの知名度向上にも積極的に取り組みました。社員による菓子問屋への地道な営業活動に加え、ラジオやテレビでコマーシャルメッセージを放映し、林家三平やイーデス・ハンソンといった著名人も起用しました。特に、大阪市営地下鉄御堂筋線の各駅改札口に掲出した広告は、1970年の大阪万博開催と相まって大きな相乗効果を生み出し、都こんぶの名を全国に広めるきっかけの一つとなりました。また、「都こんぶの唄」（作曲：早川博二）という印象的なコマーシャルソングも制作され、多くの人々に親しまれました。

現在のラインナップと広がり

現在、都こんぶは定番の15g入りパックに加え、30g入りの増量パックも販売されています。また、梅酢風味の「都こんぶ・梅酢」や、一枚ずつ個包装された「都こんぶピロー」など、ラインナップも拡充されています。さらに、近年では他企業とのコラボレーションも積極的に行われており、カルビーとの「かっぱえびせん 都こんぶ味」、栗山米菓の「都こんぶあられ」、ジャパンフリトレーの「都こんぶコーンチップス」といった食品系コラボから、漫画「銀魂」のキャラクターにちなんだ商品、ゼリーや飴、文具に至るまで、幅広い分野でユニークな商品が展開されています。

受賞歴

中野の都こんぶは、その品質と長年の功績が高く評価されており、1965年には水産庁長官賞を、1968年には第17回全国菓子大博覧会で大臣賞を受賞しています。

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