久呂田まさみ

久呂田まさみ：劇画誕生の立役者、その波乱万丈な生涯

久呂田まさみ（本名：黒田正美）は、1917年10月11日に熊本県で生まれ、1993年1[[1月12日]]に亡くなった日本の漫画家です。貸本漫画界において、劇画誕生に重要な役割を果たしたフィクサーとして知られています。

若き日の苦労と紙芝居との出会い

若くして上京した久呂田は油絵を学びましたが、太平洋戦争に従軍。復員後は炭鉱労働に従事するも、その重労働に耐えかねて離職します。その後、大阪に移り住み、米兵向けに春画を描いて生計を立てるという異色の経歴を持ちます。

転機となったのは、自作自演の紙芝居を始めたことでした。「自分で絵を描き、自分で駄菓子を作り、自分で朗読する」というスタイルが、当時GHQの規制により刺激に飢えていた子供たちの間で大人気となります。特にチャンバラ物の紙芝居は、子供たちを熱狂させました。その評判を聞きつけた紙芝居の貸元にスカウトされ、久呂田は描き手に専念することになります。

古書店経営と絵物語作家への転身

紙芝居で得た資金を元手に古書店を開店した久呂田は、店番をしながら紙芝居用の絵を描くという生活を送ります。そこで出版関係者の目に留まり、豊田文庫で絵物語の仕事を始めることになりました。子育て幽霊の怪談をモチーフにした『6本指の男』は、そのグロテスクな内容が人気を博し、社長に家を買わせるほどの売れ行きを記録しました。

1949年には、豊田文庫から創刊された月刊少年漫画誌『冒険紙芝居』に創刊号から執筆。手塚治虫や酒井七馬らも参加しましたが、編集長交代と編集方針の変更により、同誌は打ち切りとなります。

貸本漫画界のフィクサーとして

その後、メンコや塗り絵、看板描きなどの仕事で生活を繋いでいた久呂田は、貸本漫画出版社・日の丸文庫の社長、山田秀三に誘われ顧問に就任します。ここで、後進の漫画家を指導する中で、劇画誕生の動きを加速させていきます。

1956年1月、日の丸文庫からオムニバス形式の単行本『都会の虹』が発表されます。これを元に、辰巳ヨシヒロと松本正彦のアイデアをまとめ、短編集『影』の創刊に尽力しました。

1957年、日の丸文庫は大人漫画の出版に失敗し経営危機に陥ります。久呂田は手形の割り引きに奔走しますが、あえなく倒産。多額の借金を背負い、借金取りに追われる身となります。しかし、所属漫画家が路頭に迷う中、久呂田は辰巳ヨシヒロ、松本正彦、さいとう・たかをの囲い込みに成功し、名古屋の出版社・セントラル文庫で短編集『街』の編集に取りかかります。

劇画文化の中心地を築く

日の丸文庫との対立が深まる中、久呂田はセントラル文庫の社長に3人を上京させることを提案します。紆余曲折を経て、東京都国分寺市にアパートを構えることになります。この国分寺市は、後に多くの劇画漫画家が集まり、劇画文化の中心地となりました。

無頼派漫画家としての素顔

久呂田は、無頼派の漫画家として知られています。特にアルコール関係のエピソードが多く、酒豪で鳴らした後輩漫画家のいそじましげじが逃げ出すほどの飲酒量を誇ったと言われています。また、奇行も多かったため、日の丸文庫の社長や他の漫画家からは「ポン中」と呼ばれていたそうです。

人の好き嫌いが激しく、特に態度の大きい後輩のさいとう・たかをを目の敵にしており、酒席で顔面を蹴り飛ばしたこともありました。一方、辰巳ヨシヒロや桜井昌一は酒を目当てに久呂田の自宅に足繁く通っていたといいます。漫画家の沢田竜治は娘婿にあたります。

久呂田まさみの遺産

久呂田まさみの作品は、完全復刻版『影・街』や『犬神・狸娘』などで目にすることができます。彼の情熱と破天荒な生き様は、漫画史に大きな足跡を残しました。

書籍
完全復刻版　影・街（石川フミヤス、草川秀男、久呂田まさみ、さいとう・たかを、桜井昌一、佐藤まさあき、高橋真琴、辰巳ヨシヒロ、松本正彦）
復刻版 犬神・狸娘(2023、まんだらけ)(幸文堂書房刊、怪傑犬神、狸娘、地獄だるま(すべて1958年刊)の3冊を合本復刻)

参考資料
桜井昌一 『ぼくは劇画の仕掛け人だった』エイプリル出版、1978年
佐藤まさあき 『「劇画の星」をめざして - 誰も書かなかった「劇画内幕史」』文藝春秋、1996年
辰巳ヨシヒロ 『劇画漂流』青林工藝舎、2008年
松本正彦 『劇画バカたち』 青林工藝舎、2009年
* 辰巳ヨシヒロ 『劇画暮らし』本の雑誌社、2010年

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