松本正彦

松本正彦は、1934年に大阪市都島区で生まれました。父親が学校の校長という厳格な家庭で育ち、漫画を読むことを禁じられていた時期もありました。しかし、父の死後、再び漫画に触れるようになり、手塚治虫の貸本漫画から大きな影響を受けました。

1952年、松本は大阪の日の丸文庫に漫画を持ち込みました。持ち込んだ作品はSFものでしたが、社長の山田秀三は学園ものの執筆を依頼しました。その結果、1953年に単行本「坊ちゃん先生」で漫画家デビューを果たし、日の丸文庫のトップ漫画家として活躍しました。1956年には、オムニバス形式の単行本「都会の虹」を発表し、これが後の「探偵ブック 影」の原案となりました。同年11月には、単行本「吸血獣」で「駒画」という呼称を初めて使用しました。この「駒画」という概念は、後の劇画誕生に大きな影響を与えました。辰巳ヨシヒロが「劇画」という呼称を使うよりも1年以上前のことです。

松本は、同じく日の丸文庫で活動していた辰巳ヨシヒロ、さいとう・たかおと共同生活を送った後、先輩漫画家の久呂田まさみに誘われ、1958年に上京しました。しばらく「駒画」の名称にこだわっていましたが、仲間の説得を受け入れ、1959年に劇画工房に参加しました。

1960年代中盤以降は、土曜漫画などの大人向け漫画に移行しました。1970年代には、ギャグ漫画「かあちゃんキック」（1972年）や「パンダラブー」（1973年）などを発表しました。その後、「ゴルゴ13」の原作執筆や、小学館ビッグコミックでの自伝漫画「劇画バカたち」の連載などを経て、1980年代からは切り絵作家に転身しました。高島屋、東急、銀座松屋、京王などの都内百貨店やギャラリーで毎年個展を開催し、その才能を発揮しました。

2000年には、ギャグ漫画作品「パンダラブー」が復刻され、2002年には青林工藝舎から正式に復刻版が発売されました。2003年には、銀座のギャラリー悠玄にて最後の個展を開きましたが、その最中に胃がんが見つかり、胃の全摘手術を受けました。その後、2005年2月14日にスキルス性胃がんのため70歳で亡くなりました。同年には、ギャラリー214にて追悼展が開催されました。

2008年には、河口湖ミューズ館にて切り絵作品を集めた回顧展が開催され、2009年には貸本時代の作品を集めた「松本正彦駒画作品集 隣室の男」、1970年代の抒情的な傑作を集めた「たばこ屋の娘」、そして劇画誕生を描いた「劇画バカたち」が立て続けに出版されました。2010年には、「たばこ屋の娘」のフランス語版がフランスで出版され、アングレームフェスティバルで文化遺産賞にノミネートされるなど、国際的な評価も受けました。2011年7月には恵比寿のギャルリカプリス、2012年9月には原宿の積雲画像にて切り絵作品だけの個展が開催されました。

松本正彦は、漫画家としてだけでなく、切り絵作家としても独自の才能を発揮し、日本の漫画史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、今も多くの人々に愛され、その功績は高く評価されています。

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