日の丸文庫

日の丸文庫とは

日の丸文庫は、かつて大阪市中央区に存在した日本の出版社、および同社が刊行していた漫画単行本のレーベルです。劇画のルーツとも言われる短編集『影』を出版し、貸本漫画の隆盛期において、西日本を代表する出版社として知られていました。多くの才能ある漫画家を輩出し、日本の漫画史に大きな足跡を残しました。

創業と隆盛

1951年、天理大学外国語学部を卒業した山田秀三が、弟の山田喜一とともに東洋出版社として創業しました。わずかスイカ3個を元手に資金を集めたという逸話が残っています。その後、1953年末から八興、光映社、光伸書房と社名を変更し、赤本漫画家の久呂田まさみを顧問に迎え、本格的に貸本漫画の出版を開始しました。

辰巳ヨシヒロ、松本正彦、さいとう・たかを、佐藤まさあきなど、新進気鋭の漫画家を次々とデビューさせ、事業を拡大。青年漫画雑誌の先駆けとなる短編集『影』シリーズを大ヒットさせ、最盛期を迎えました。この成功により、社長の山田秀三は、横山泰三ら大人漫画を描いていた漫画集団の単行本化の権利を獲得し、一般流通への進出を試みますが、これは失敗に終わり、多額の負債を抱えることになりました。

倒産と再起

1957年2月27日、日の丸文庫は倒産。山田秀三は、手形の裏書きを書き換えた容疑で有価証券偽造罪に問われ、大阪府警に逮捕されました。出版社の倒産により職を失った専属漫画家たちは、次々と他の出版社へ移籍し、短編集『影』の類似誌が多数出版され、貸本漫画の黄金期が到来します。

その中で、久呂田まさみは、辰巳ヨシヒロ、松本正彦、さいとう・たかをといった主要メンバーの引き抜きに成功し、名古屋のセントラル文庫の資金提供を得て、3人を連れて上京。東京都国分寺市に拠点を構えました。この国分寺市は後に、影丸穣也をはじめ、多くの劇画漫画家が集まる劇画文化の中心地となりました。

倒産した八興出版は、1957年7月に光映社として再出発。佐藤まさあき、石川フミヤス、K・元美津、桜井昌一、山森ススムらを呼び戻し、契約で縛ることで再起を図りました。短編集『影』を月刊誌化し、時代劇短編集『魔像』を発行。水島新司や平田弘史など、住み込みで働く新人漫画家たちの活躍もあり、再び貸本漫画業界の第一線に復帰しました。

衰退と終焉

しかし、大手出版社が『週刊少年マガジン』や『週刊少年サンデー』などの週刊漫画誌を創刊するようになると、流通が限られていた貸本漫画業界は急速に衰退します。日の丸文庫も一般流通への参入を試み、『影』をリニューアルして新書版『ハイコミック』シリーズを創刊。さらに『劇画マガジン』、『ごん』を一般書店向け雑誌として出版しますが、売上が伸び悩み、1970年初頭に出版社としての歴史に幕を閉じました。

2009年には、小学館クリエイティブより、劇画工房誕生50周年を記念し、短編集『影』とライバル誌『街』の創刊号復刻版が発売されました。

主な出版物

単行本・B6判ハードカバー『日の丸まんが文庫』
『ウッカリ君とチャッカリちゃん』（いそじましげじ作）
『恐怖の唐手打ち』（久呂田まさみ作）
『とび出したお嬢さん』（いそじましげじ作）
『どんぐり童子』（岡田正美作）
『ふうせん侍』（岡田正美作）
『スタァ誕生』（いそじましげじ作）
『燃る大佛像』（四尾沢光雄作）
『地獄門』（岡田正美作）
『山の兄弟 : 横綱出世物語』（山口真民作）
『蝶々捕物帖 : 痛快探偵漫画』（尾花美好作）
『イダテン君』（久呂田まさみ作）
『ガッカリエコちゃん : 痛快けっさく漫画』（菊池日出雄作）
『お嬢さんに関する12章』（いそじましげじ作）
『電光の門』（久呂田まさみ作）
『母恋五十三次』（尾花美好作）
『原爆スパイ』（中村将美作）
『ゴジラ君』（久呂田まさみ作）
『指紋なき男』（山森進作）
『鬼剣八荒』（岩井しげお作）
単行本・A5判ハードカバー『日の丸まんが文庫』
15巻まで確認済
短編集・A5判
『影』本誌 全120巻
『魔像』本誌 全86巻
『オッス』本誌 全67巻
『きみとぼく』全11巻
『QP』全6巻
『中学生諸君』全5巻
『まんが笑点』『ヤングパンチ』など単発形式の短編集
雑誌・B5判
『まんがサンキュー』
『まんがジャイアンツ』
『劇画マガジン』
『ごん』

関連書籍

佐藤まさあき 『「劇画の星」をめざして - 誰も書かなかった「劇画内幕史」』文藝春秋、1996年
辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』青林工藝舎、2008年
松本正彦 『劇画バカたち』 青林工藝舎、2009年
辰巳ヨシヒロ 『劇画暮らし』本の雑誌社、2010年

関連項目

貸本漫画

日の丸文庫は、貸本漫画という文化が隆盛した時代において、重要な役割を果たした出版社であり、その歴史は、日本の漫画文化を語る上で欠かせないものです。

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