久慈山地

久慈山地：茨城県北部の自然豊かな山地

久慈山地は、茨城県北部に広がる山地で、南北約38km、東西約13kmにわたって細長く伸びています。阿武隈高地の南端に位置し、西は久慈川、東は里川を境に、それぞれ八溝山地、多賀山地と接しています。標高は300mから600m程度で、北側が高く、南へ行くにつれて丘陵地帯へと変化します。

山地の構成

山地の中央部を南北に流れる山田川と、北部の生瀬盆地を境に、東側の東金砂山地と西側の男体山地に分けられます。

東金砂山地：北から佳老山、花立山、鍋足山、東金砂山などの山々が連なります。
男体山地：北から生瀬富士、月居山、奥久慈男体山、篭岩山、明山などが連なり、茨城県内でも特に起伏の大きい山地です。主峰の奥久慈男体山は、西側と南側に高さ300mにも達する断崖があり、荒々しい山容が登山者に人気です。

竜神峡と袋田の滝

男体山の北東面を源流とする竜神川は、深い峡谷を形成しており、竜神峡と呼ばれています。峡谷の下流には竜神ダムがあり、ダム湖には高さ日本一のバンジージャンプで有名な竜神大吊橋が架かっています。また、生瀬富士と月居山の谷を流れる滝川には、日本三名瀑の一つである袋田の滝があります。袋田の滝は高さ120m、幅73mで、4段にわたって流れ落ちる壮大な滝です。

地質

久慈山地は、主に新第三紀中新世の火山性岩石で構成されています。この時代、日本列島周辺では海底火山の活動が活発で、その噴出物が海底に堆積し、隆起して現在の山地となりました。男体山は、約1200万年前から1300万年前に形成された男体山火山角礫岩と呼ばれる地層から成り、主にガラス質の安山岩の角礫で構成されています。男体山周辺では、角礫岩に比べて脆い砂質岩が浸食され、断崖が形成されています。

自然環境

植生

人里に近い場所ではスギやヒノキの植林地が多いですが、沢沿いや稜線には落葉広葉樹林が広がっています。山頂付近には、イヌブナ、ミズナラ、リョウブ、ウリハダカエデ、イヌシデ、ハクウンボクなどの温帯林が見られます。また、岩崖にはフクロダガヤ、ヤハズハハコ、アオノイワレンゲ、イブキジャコウソウ、ミヤマスカシユリなど、特有の植物が生育しています。

フクロダガヤ：袋田の滝付近で最初に発見されたイネ科の植物で、茨城県内ではこの山地の火山角礫岩帯にのみ分布しています。環境省のレッドリストでは絶滅危惧IB類に指定されています。
ミヤマスカシユリ：スカシユリの山地生変種で、茨城県内では久慈山地のみに分布します。盗掘などにより個体数が減少し、絶滅危惧IB類に指定されています。

動物

久慈山地周辺には、キツネ、タヌキ、アナグマ、ノウサギ、ムササビ、ヤマネなどの中小型哺乳類が生息しています。大型哺乳類としてはニホンイノシシが生息していますが、ツキノワグマやニホンジカなどは確認されていません。また、茨城県ではニホンザルは絶滅したとされていますが、稀に単独で行動する個体が移動してくることがあります。

主な山と峠

東金砂山地

佳老山（459m）
観音山（515m）
花立山（518m）
猪ノ鼻峠（435m）
鍋足山（552m）
東金砂山（481m）

男体山地

檜山（509m）
高見山（463m）
生瀬富士（406m）
立神山（約420m）
月居峠（約300m）
月居山（404m）
長福山（496m）
奥久慈男体山（654m）
大円地越（約510m）
櫛ヶ峯（554m）
篭岩山（501m）
明山（457m）
白木山（616m）
高崎山（594m）
中武生山（555m）
武生山（459m）
西金砂山（410m）
鷹取山（424m）

主な河川

久慈川
大生瀬川（下流に月待の滝がある）
滝川（袋田の滝がある）
浅川
山田川
竜神川（竜神峡）
里川

まとめ

久慈山地は、豊かな自然と変化に富んだ地形が特徴の山地です。登山やハイキング、観光スポットとしても人気があり、多くの人々が訪れます。貴重な動植物が生息する自然環境は、保護の必要性も示唆しています。

参考文献

『茨城県大百科事典』、茨城新聞社、1981年
『新・分県登山ガイド　７　茨城県の山』、山と渓谷社、2016年
『阿武隈・奥久慈・八溝の山』、随想舎、2001年
『大子地域中新世火山岩類の化学組成とK-Ar年代』、地質学雑誌第114巻 第6号、2008年
『茨城のすがた その地域性』、文眞堂、1976年
『フクロダガヤの分布と生態』、日本生態学会誌、1959年

関連項目

阿武隈高地
多賀山地
奥久慈県立自然公園

もう一度検索