久留島義太

久留島義太について

久留島義太（くるしま よしひろ、1690年頃 - 1758年）は、江戸時代に活躍した和算家であり、将棋指しとしても知られています。通称は喜内（きない）で、別名は沾数（扇数）です。彼の人生は独特で、酒を愛するあまり、その収入の多くを酒に費やしていたと伝えられています。著作をほとんど残さなかった彼の独自の学説や理論は、弟子たちによってまとめられ、後世に伝えられました。

和算家としての業績

義太の父は備中（現在の岡山県）松山藩の士族・村上佐助義寄であり、主家の断絶後に父子ともに浪人となります。その際、久留島の姓を名乗ることになりました。独学で数学を学ぶ過程で、江戸において吉田光由の著作「塵劫記」と出会い、これに感銘を受けました。数学指南をしていた折に中根元圭と出会い、彼の才能を見出した中根から後援を受けます。特に享保15年（1730年）、陸奥国の磐城平藩の藩主である内藤政樹に仕官し、1747年には日向国延岡藩へ移封されます。

彼の数学的業績は、関孝和以後の和算の大部分にも影響を与えました。特筆すべきは、オイラーのφ関数やラプラスの余因子展開に関する考察が彼よりも早くなされていたという点です。また、極値問題についてもピエール・ド・フェルマーの方法に倣った着想を展開しました。

義太は整数方程式や無限級数、円理などの研究で名を馳せ、行列式の展開においては関孝和の誤りを訂正したことでも知られています。立方陣の解析においても、彼は1640年にフェルマーによって行われた実験を踏まえ、4本の立体対角線を持つ立方陣を最初に構築したとされます。

酒と独特な生活

義太は酒をこよなく愛し、日常生活の中でも多くの逸話が語られています。研究に没頭するあまり、成果物を大事にせず、書いた論文で行李の裏を張ってしまったといったエピソードもあります。彼の和算に関する業績は、弟子や知人によってまとめられた書物に記録されています。特に『久氏弧背術』や『久氏三百解』、『久氏遺稿』などがその名作とされています。

同時に、彼は詰将棋作家としても有名でした。アマチュア棋士として高い腕前を持っていたものの、特に詰将棋作図において偉大な業績を残しました。論理的なアプローチで作り上げた「金知恵の輪」や「銀知恵の輪」といった趣向は今でも多くの人に親しまれています。彼の作品を集めた『将棋妙案』や『橘仙貼璧』は、詰将棋界において高い評価を受けています。

数学との出会い

久留島が数学と出会った背景は『山路君樹先生茶談』という写本によって語られています。浪人時代、本所に住んでいた際に手に入れた「塵劫記」との出会いが彼の人生を大きく変えることになります。数学を難しいものとして捉える世の中に対する疑問を抱いた彼は、さっそく算術指南を開き、弟子を教え始めました。評判は良く、弟子も増え、彼の名声は広がります。

中根元圭との出会いにおいては、その才能の高さに感嘆されたエピソードが有名です。この時、久留島は代数については無知でしたが、算術だけで多くの難問を解いたため、中根は彼に一切の助言を嫌がらせることなく、共に研究を続けることを約束します。

逸話と人間性

久留島の奇行はその人物像をより印象深くしています。彼は常に酒を求め、時には居眠りをしながらも多彩な業績を残す一方、日常生活においては無駄に近い行動をとっていました。ある日、近所での用事をすませるために出かけた彼は、芝居小屋に寄り道をし、帰りが遅くなったこともあります。また、階級に応じた服装を持たないことから、仕官の機会を逃すこともしばしばありました。このような逸話が彼を一層特異な存在として際立たせているのです。

義太は延岡での6年間を経て江戸に戻った際には、多くの工夫を凝らした研究を行ったにも関わらず、帰る際にその記録を全て紙に使ってしまったため、防止法が見当たらないという一幕もありました。彼の生涯は、独創的な才能と不器用な人間性を併せ持った非常にユニークなものであったと言えます。

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