事前集積船

事前集積船（Maritime Prepositioning Ship, MPS）

事前集積船（じぜんしゅうせきせん、英語: Maritime Prepositioning Ship, MPS）は、アメリカ合衆国軍が運用する特殊な輸送船群を指します。これらの艦船は、有事発生時に必要な兵器や膨大な補給物資をあらかじめ満載した状態で、世界各地の戦略的に重要な海域に展開・待機させておくことを主な任務としています。

目的と役割

事前集積船システムの最大の目的は、危機発生時に空路で迅速に展開する米軍部隊（陸軍、海軍、空軍、海兵隊を含む各軍種）に対して、空輸には不向きな重量級の装備品や、航空機では一度に輸送しきれない大量の物資を、沿岸部で迅速に供給することです。これにより、部隊は到着後速やかに戦闘準備を整えることが可能となり、初期段階における戦略的な柔軟性と即応性を大幅に向上させることができます。事前に物資を目標地域に近い海上に配備しておくことで、長距離輸送にかかる時間やコストを削減し、サプライチェーンの脆弱性を低減する効果も期待できます。

各軍種向けの船隊編成

事前集積船は、その搭載する物資や支援対象となる部隊に応じて、いくつかの船隊に分かれて編成されています。主な船隊は以下の通りです。

海兵隊向け

アメリカ海兵隊のために運用される事前集積船は、「海上事前集積船隊（Maritime Prepositioning Ship Squadron, MPSRON）」として編成されています。この船隊は合計10隻の艦船から構成されており、海兵隊の遠征作戦に必要な各種装備や物資を搭載しています。

陸軍向け

アメリカ陸軍用の事前集積船は、「戦闘事前集積備蓄船隊（Combat Prepositioning Set, CPS）」と呼ばれる8隻の艦船で構成されています。この船隊は、1998年までは「米陸軍戦時予備備蓄（Army War Reserve, AWR）」として知られていましたが、以降は「第3陸軍事前集積備蓄（Army Prepositioned Stock, APS-3）」に名称が変更されました。主に重機甲旅団や第6洋上配備旅団といった陸軍部隊向けの重装備を搭載しており、以下の艦種が含まれます。

ワトソン級大型中速車両輸送艦：6隻
コンテナ貨物船：2隻

これらの陸軍事前集積船は、年間を通じて大半の期間をペルシャ湾地域（バーレーン、アラブ首長国連邦のジュベル・アリ港など）に展開しており、一部はインド洋のディエゴガルシア島でも事前備蓄されています。これは、中東地域における潜在的な紛争リスクに対応するための戦略的な配備と考えられます。

その他の軍種向け

国防兵站局（Defense Logistics Agency, DLA）、アメリカ空軍、およびアメリカ海軍が利用する事前集積船は、「兵站事前集積部隊（Logistics Prepositioning Set, LPS）」として8隻で構成されています。これらの艦船は、平時にはその大半がディエゴガルシア島に停泊・待機しており、必要に応じて世界各地へ展開します。内訳は以下の通りです。

国防兵站局所管のK.R.ウィーラー海軍中将級沿岸送油システム（OPDS）艦：1隻
沿岸部への燃料供給能力を持つ特殊タンカー。
空軍の航空機用弾薬を積載したコンテナ貨物船：2隻
航空作戦に不可欠な弾薬を大量に輸送・供給。
海兵隊航空部隊への兵站支援を行うライト級航空兵站支援艦：2隻
海兵隊の航空機運用に必要な物資や部品を輸送。
海軍の艦艇が必要とする貨物・弾薬を積載したルイス・アンド・クラーク級貨物弾薬補給艦：2隻
艦隊への補給任務も兼ねる能力を持つ。
モントフォード・ポイント級遠征移送ドック：1隻
洋上での物資揚陸拠点として機能し、揚陸能力を持たない大型輸送艦からの荷下ろしを支援。

これらの事前集積船は、各軍種の特定のニーズに対応する装備や物資を搭載しており、米軍が世界各地で迅速かつ効率的な部隊展開および継戦能力を維持する上で、欠かせない要素となっています。

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