海上事前集積船隊

海上事前集積船隊（MPSRON）

海上事前集積船隊（Maritime Prepositioning Ships Squadron, MPSRON）は、アメリカ輸送軍（USTRANSCOM）の指揮下にある軍事海上輸送司令部（MSC）が管理する、米海兵隊の戦略的な展開能力を支える重要な船舶部隊です。

役割と目的

MPSRONの主な目的は、世界中で潜在的な紛争が発生する可能性のある海域の近くに、事前に海兵隊が必要とする大量の兵器、車両、補給品、弾薬などを積載したまま待機させることです。これにより、有事の際に海兵隊がアメリカ本土から展開するよりもはるかに迅速に、これらの物資を紛争地域近傍へ輸送し、部隊が即座に戦闘行動を開始できるよう支援します。特に、航空輸送が困難な重くかさばる装備の事前配置に重点が置かれています。

仕組みと運用

これらの船舶は、海兵隊向けの装備や物資を満載したコンテナ船や車両輸送船（RO-RO船）として運用されます。平時は米軍の海外拠点のある港湾などに停泊していることが多いですが、必要に応じて機動的に展開します。有事の際には、紛争地に近い港湾へ移動し、搭載物資を陸揚げします。多くの船は自前のクレーンを備えているため、設備の整っていない港湾でも効率的に荷役作業を行うことが可能です。

MPSRONの船舶は非武装であり、軍事海上輸送司令部の管理下にありますが、実際の運航や保守はアメリカ海軍からの委託を受けた民間の海運会社が行っています。各船には25名から30名程度の民間人船員が乗船して運航にあたり、これに加えて3名から15名程度の専門技術者が搭載装備の維持整備を行います。

現在の構成と配備

現在、海上事前集積船隊は二つの船隊で構成されています。

第2海上事前集積船隊（MPSRON-2）: インド洋のディエゴガルシア島や、ペルシア湾内のバーレーン、UAEのジュベル・アリといった港湾を巡回しています。カリフォルニア州を拠点とする第7海兵遠征旅団（7MEB）との連携が想定されています。
第3海上事前集積船隊（MPSRON-3）: 西太平洋のグアム島やサイパン島を拠点とし、沖縄、韓国、タイなどの港湾を巡回しています。ハワイ州を拠点とする第1海兵遠征旅団（1MEB）との連携が想定されています。

かつて存在した第1海上事前集積船隊（MPSRON-1）は2012年に解隊され、全体としての船舶数は以前の16隻から現在の合計10隻へと縮小されました。

展開能力

MPSRONの配備により、例えばインド洋方面からペルシャ湾まで物資を輸送する場合、アメリカ本土から輸送するのに約3週間かかるのに対し、約1週間で到着させることが可能となり、展開時間を大幅に短縮できます。海兵隊員が空路で展開した後、MPSRONが港に到着して物資を陸揚げし、部隊がこれらを使用して戦闘準備を完了するまでには、全体としておよそ10日間が見込まれています。この期間には、船からの荷下ろし作業にかかる平均4日間も含まれます。

各MPSRONは、海兵空地任務部隊がおよそ30日間の継続戦闘を行うために必要な機材、補給品、弾薬を積載できる能力を持つとされています。これには、戦車や榴弾砲といった重火器、装甲車両、ハンヴィー、燃料、水などが含まれ、約17,300名分の兵員装備に相当する量です。

運用されている艦船

MPSRONでは、コンテナ貨物輸送艦（T-AK）とコンテナ車両輸送船（T-AKR）が運用されています。現在の主な運用艦級は以下の通りです。

ジョン・P. ボボ少尉級: 5隻のコンテナ貨物輸送艦（T-AK）。改造された民間コンテナ船を基に建造され、ディーゼル機関を持ち、ヘリコプターの着艦にも対応しています。全長約205.8メートル、満載排水量約45,041トン。
シュガート級: 1隻の車両貨物輸送艦（T-AK）。
ボブ・ホープ級: 2隻の車両貨物輸送艦（T-AKR）。
ワトソン級: 2隻の車両貨物輸送艦（T-AKR）。

過去にはルイス・J・ハウジ・ジュニア伍長級（5隻）、マティ・コカゥ軍曹級（3隻）といった艦級もMPSRONの中核を担っていました。これらの船舶も民間船からの改造が多く、船体延長やヘリコプター甲板の追加が行われました。

これらの民間籍の船舶は、米国保有の軍用艦艇に付与されるUSNS（United States Naval Ship）ではなく、MV（Motor Vessel）やSS（Steamship）といった接頭辞が付けられます。

歴史

海上事前集積の構想は1980年代初頭に具体化し、1980年7月には暫定事前集積船隊（NTPS）が編成され、インド洋に配備されました。当初は既存の民間船や海軍所有船を転用した7隻で構成されていましたが、後に専用に建造または改造された船舶に順次置き換えられました。2000年代初頭には更なる船舶が追加されましたが、その後の戦略の見直しにより、一部の船隊が解隊され、現在の規模となりました。

海上事前集積船隊は、米海兵隊が世界のあらゆる場所へ迅速に展開し、初期段階の戦闘を持続するためのロジスティクスを確立する上で、不可欠な要素となっています。

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