遠征移送ドック

遠征移送ドック（ESD）

遠征移送ドック（Expeditionary Transfer Dock、略称：ESD）は、旧称を機動揚陸プラットフォーム（Mobile Landing Platform、略称：MLP）と称し、アメリカ海軍が開発・運用する洋上作戦支援用の補助艦艇である。その主な役割は、大規模な強襲揚陸作戦において、喫水の深い大型海上輸送艦から揚陸部隊（主にLCACやヘリコプターなど）へ、兵員や装備、物資を効率的に移送するための洋上基地として機能することにある。

就役後は、海上輸送司令部（Military Sealift Command, MSC）に所属し、USNS（United States Naval Ship）の接頭辞を付与されて運用される。これは、本級が軍事的な任務を担うものの、文民によって運用される補助艦艇であることを示す。配属先は、各地域に事前配備されている海上事前集積船隊（Maritime Prepositioning Force, MPF）の一部となる。

開発背景と概念

現代の強襲揚陸作戦において、従来の強襲揚陸艦だけでは搭載能力や展開可能な部隊規模に限りがあり、大規模な作戦の実施には不十分な場合がある。また、大規模な揚陸には港湾の利用が不可欠となることが多いが、特に海外での作戦においては、他国の領土である港湾への依存が政治的な制約や調整の困難さを伴うことが少なくない。

こうした課題を克服し、より柔軟かつ迅速な大規模揚陸能力を確保するため、「シー・ベイシング（seabasing）」、すなわち洋上に作戦基盤を構築する概念が提唱された。この概念の中核を成すのが、ESD（MLP）である。ESDは、海上で待機する大型の海上事前集積船隊輸送艦から、搭載されている大量の車両や物資を、LCAC（エアクッション型揚陸艇）やその他の揚陸手段に移し替えるための「動く桟橋」または「中継拠点」としての役割を担う。これにより、部隊や装備を直接揚陸地域へ送ることが可能となり、港湾への依存度を低減し、作戦の自由度を高めることが期待される。

設計と変遷

ジェネラル・ダイナミクス社とその子会社であるナショナル・スチール・シップビルディング社（NASSCO）が設計・建造を請け負った。

開発初期の設計案は、より高性能なプラットフォームを志向していた。例えば、6隻のLCACを搭載し、同時に2隻のLCACのドック作業（発着、荷役）を行える能力や、大型輸送艦からの車両移送に特殊なシステム（Test Article Vehicle Transfer System）を用いる構想が含まれていた。この初期案では、旅団規模の部隊収容能力を持ち、速力は20ノット、最大航続距離は約9,000海里と見積もられ、1隻あたりの建造費は15億ドルという高コストなものだった。

しかし、2009年に将来的な予算削減の必要性が見込まれたことから、計画規模の見直しと設計の簡略化が行われた。この縮小案では、コスト削減を最優先とし、NASSCOが建造実績のあるアラスカ級石油タンカーをベースとした設計が採用された。本級はFOFO（Float-on/Float-off）船の特性を持ち、喫水を調節することで甲板を海面近くまで沈め、LCACの発着を容易に行える構造となっている。中央には広く低い車両待機エリアが設けられ、サイドポート・ランプや防舷材、複数のLCACレーンを備える。コスト削減のため、当初想定された特殊な車両移送システムは採用されず、より単純なサイドポート・ランプ方式に変更されたほか、ヘリコプター運用能力も削除された。搭載可能なLCAC数は3隻に削減された。縮小案における1隻あたりの建造費は約5億ドルと大幅に低減された。載貨重量トン数は60,000メトリックトン以上とされる。

概念実証試験

本級の開発に先立ち、洋上での装備移送能力を検証するための概念実証試験が行われた。2005年には、重量物運搬船マイティ・サーヴァント1をMLPに見立て、RO-RO船ワトソン級車両貨物輸送艦USNSワトキンスを海上事前集積船隊向け輸送艦に見立てた予備試験がワシントン州ピュージェット湾で行われた後、サンディエゴ沖で本格的な荷役試験が実施された。マイティ・サーヴァント1は喫水を調整し、LCACが甲板から海面へ直接出入りできることが確認された。

その後も試験は継続され、2006年にはバージニア州ノーフォーク沖でUSNSレッド・クラウドとマイティ・サーヴァント3を用いて、2010年にはメキシコ湾においてUSNSソダーマンとマイティ・サーヴァント3を用いて試験が行われた。特に2010年の試験では、波高がシーステート4というある程度の荒波環境下で、人員、ハンヴィー、M1エイブラムス戦車といった多様な装備を、輸送艦からMLPを経由してLCACへ移送する作業が検証された。この試験では、当初案にあった特殊移送システムと、最終設計で採用されたランプ方式の両方が試され、その有効性が確認された。

建造と艦名

2010年8月、NASSCOは本級の設計および初号艦の建造契約を獲得した。初号艦の建造は2011年7月にサンディエゴのNASSCO造船所で開始された。機関システムはフランスのコンバチーム（Converteam）が受注した。計画当初、初号艦は2015年に就役予定とされていた。NASSCOは、続く2号艦および3号艦の建造も受注しており、それぞれ2013年、2015年に発注が予定されていた。3号艦は2018年に就役する計画だった。

2011年1月には、初期に建造が計画された3隻の艦名が公表された。初号艦は「モントフォード・ポイント（USNS Montford Point）」と命名された。これは、第二次世界大戦中にノースカロライナ州にあった海兵隊基地に由来し、そこで訓練を受けた約2万人のアフリカ系アメリカ人海兵隊員が、後に軍隊における人種差別の撤廃に貢献した歴史的意義を持つことに敬意を表している。これらの兵士には、近年議会名誉黄金勲章が授与されている。2号艦は、海兵隊大佐、パイロット、宇宙飛行士、そして上院議員として多大な功績を残した「ジョン・グレン（USNS John Glenn）」にちなんで命名された。3号艦は、海兵隊中将であり、海軍十字章を史上唯一5度受章した伝説的な軍人、「ルイス・B・プラー（USNS Lewis B. Puller）」の名前が付けられた。

なお、ネームシップであるモントフォード・ポイントは2013年に竣工し、同年5月には軍事海上輸送司令部へ引き渡され、既に活動を開始している。

主な活動実績

初号艦のモントフォード・ポイントは、就役後の早い段階から運用試験や演習に参加している。例えば、2014年6月26日から8月1日にかけて環太平洋合同演習（リムパック2014）に参加し、同時期に建造された遠征高速輸送艦「ミリノケット」や沿海域戦闘艦「コロナド」といった新型艦とともに存在感を示した。この演習の一環として、カリフォルニア沖の演習海域において、海兵隊との共同訓練を実施し、その洋上移送能力や基地機能を確認した。

また、ルイス・B・プラー（当初MLPとして計画されたが、後に派生型である遠征海上基地（ESB）に分類変更・改修された可能性がある）は、2020年4月にミサイル駆逐艦「ポール・ハミルトン」など複数の艦艇と共にペルシア湾の公海上に展開した際、地域の情勢緊張を反映し、イラン革命防衛隊の小型船舶と緊迫した状況を生じる場面もあったと報じられている。

同型艦

遠征移送ドック（ESD）としては、モントフォード・ポイント級が存在する。また、本級の設計を基にした派生型として、よりヘリコプター運用能力や指揮統制機能を強化した遠征海上基地（Expeditionary Sea Base, ESB）も建造されている。

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