二級ダム

二級ダムは、広島県呉市を流れる二級河川・黒瀬川のほぼ中央、風光明媚な二級峡の地点に建設された多目的ダムです。

基本情報と沿革

このダムは高さ32メートルの重力式コンクリートダムで、広島県と中国電力によって共同管理されています。その歴史は古く、太平洋戦争が激化していた1942年（昭和17年）に完成しました。当時の日本において河川総合開発事業は、物部長穂の提唱した『河水統制計画案』を基に国が進める一方、各地方でも独自の事業が展開されていました。

二級ダムの建設もその一つで、広島県、電力事業を管轄する日本発送電、そして大日本帝国海軍の三者共同事業として計画されました。戦時下においては軍事関連施設への電力や水の供給が重要視され、呉市に存在した呉海軍工廠及び海軍基地への安定した上水道供給は、海軍からの強い要請でした。これに応じる形で、二級ダムは海軍の上水道確保に加え、水力発電を行うための多目的ダムとして建設されたのです。広島県内の多目的ダムとしては、二河川の本庄ダムに次ぐ古い歴史を持っています。

残念ながら、ダムの建設に関する詳細な資料や補償交渉の経緯については、その後の空襲によって焼失し、ほとんどが失われています。

戦後の変遷と現在の管理

終戦後、連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）の指令により、旧日本軍関連施設は自治体や民間に払い下げられることになりました。これに伴い、二級ダムの上水道事業は本庄ダムなどと共に呉市水道局へ移管されました。また、電力事業を担っていた日本発送電の解体後、発電事業は中国電力に引き継がれ、現在に至ります。

現在、二級ダムは河川法第17条に定められた「兼用工作物」としての多目的ダムであり、その管理業務は『黒瀬川二級ダム操作規程』に基づき、中国電力が代行しています。

なお、このダムは呉市水道局の文書で「県営二級貯水池」と呼ばれることもあり、「黒瀬川堰堤」、「黒瀬川ダム」、「二級峡ダム」といった通称でも知られますが、これらはいずれも正式名称ではありません。また、同じ黒瀬川水系には、支流のガガラ川に建設された農業用アースダムの黒瀬ダムが存在しますが、こちらは1987年完成の全く別のダムであり、混同されがちなので注意が必要です。

上水道事業の廃止経緯

完成当初から呉市への上水道供給を担っていた二級ダムですが、現在は上水道としての利用は休止、事実上の廃止状態となっています。これは、ダム上流地域、特に呉市郷原地区や旧黒瀬町（現在の東広島市）での宅地開発が進んだ一方、下水道の整備が追いつかず、黒瀬川の水質が悪化したことが原因です。

水質悪化後も消毒や浄水処理を強化して使用を続けていましたが、水道利用者からは「カルキ臭が強い」といった苦情が相次ぎ、浄水処理能力では対応しきれないほど水質が悪化したため、やむなく上水道としての供給を停止するに至りました。

これに伴い、二級ダムから水を受けて浄水処理を行っていた石内浄水場も1997年4月1日をもって業務を終了しました。その機能は、別の水源を利用する平原浄水場や宮原浄水場に移管されています。旧石内浄水場は現在、「二級水源地」と名称を変え、工業用水専用の施設として運用されています。

現在の呉市は、二級ダムに代わる上水道の水源として、本庄ダムに加え、太田川水系に位置する温井ダム（滝山川）や、遠く離れた江の川水系の土師ダムなどからも水の供給を受けています。

観光と周辺環境

ダム下流には二級峡が広がり、甌穴（おうけつ）と呼ばれる奇岩地形の名所として知られています。渓谷沿いには遊歩道が整備されており、自然散策を楽しむことができます。また、ダム堤体の天端部分は、中国自然歩道の一部にも指定されています。

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