五義民

五義民事件：百姓一揆と犠牲者たちの鎮魂

五義民とは、江戸時代に出羽国秋田郡坊沢村（現在の秋田県北秋田市坊沢）で、重税と労役を課す肝煎（村のリーダー）と対立し、藩に直訴した結果、斬首された5人の農民たちのことです。

事件の概要

1724年（享保9年）、坊沢村では肝煎であった長崎兵助による過重な税と労役が、村人たちの生活を圧迫していました。長崎兵助は有能な人物でしたが、村のために多くの事業を行った結果、その費用負担が村人に重くのしかかったのです。

伝えられるところによると、1石につき60文という加徴が行われました。これは前年の洪水による被害を補填するためでしたが、その年の作柄も悪く、村人の不満は高まっていました。村人は上役人に訴えましたが、長崎兵助が事前に手を回していたため、訴えは退けられました。

追い詰められた村人たちは、藩に直訴を決意します。しかし、当時の法では、百姓が訴えを起こす場合、肝煎や長百姓を通して行う必要があり、それを無視した直訴は重罪とされていました。結果として、戸島与市右衛門（35歳）、戸島吉兵衛（28歳）、戸島権助、成田喜左衞門、成田喜兵衛（41歳）の5人が首謀者として捕らえられ、村外れの桜木岱で斬首刑に処されました。

この事件では、他にも21人が有罪となり、牢に入れられました。そのうち16人は村を追放され、打ち首となった5人は3日間晒された後、現在の首切塚がある場所に埋葬されたとされています。彼らの辞世の句も残されています。

長崎氏による支配下では、村人は肝煎を恐れて首切塚に手向けをすることすらできませんでしたが、いつの頃からか、誰の手によるものとも知れず、墓標のように石が置かれるようになったと言います。

事件については、様々な伝承が残っています。処刑当日、藩から派遣された急使が助命の御用状を持っていましたが、肝煎の策略によって到着が遅れ、間に合わなかったという話もあります。ただし、『坊沢郷土史』では、この点について疑問を呈しています。

五義民の碑と慰霊

北秋田市の坊沢地区では、五義民事件で処刑された5人の村人を慰霊するため、三百回忌にあたる2024年11月6日に慰霊祭が執り行われました。この慰霊碑は、二百年忌にあたる1924年（大正13年）に、処刑場所であった桜木岱の古い墓石の跡に建てられました。1978年（昭和53年）には、「首切り塚と五義民地蔵」として市史跡に指定されています。

お盆の時期に永安寺の境内で舞われる「坊沢獅子踊り」も、犠牲となった五義民の霊を慰めるために始まったと伝えられています。

慰霊祭では、参列者一同が黙祷を捧げ、慰霊碑に献花し、五義民の冥福を祈りました。

五義民の碑

五義民の碑は、地元青年会が中心となって資金を集め、建立されました。しかし、当時の青年会の構成員には支配層の子孫も多く、資金集めは難航したと言われています。碑の右奥には、風化して文字が判読できなくなった五義民の墓石があります。

永安寺の地蔵尊

坊沢の永安寺には、五義民の冥福を祈る地蔵尊が祀られています。この地蔵は、別名「首なし地蔵」と呼ばれ、何度修復しても首が落ちてしまうという言い伝えがあります。石の裏には「享保12年（1727年）末5月、願主戸島三郎兵衛」と刻まれています。戸島三郎兵衛は、五義民の一味として追放された後、帰村して剃髪し、五義民のために念仏を唱え続けた人物だとされています。

肝煎 長崎家

坊沢は、古くは房ノ沢と呼ばれ、修験者によって開かれた村と言われています。中世には比内浅利氏の家臣であった長崎尾張がこの地を支配し、江戸時代には長崎氏がそのまま肝煎となりました。五代目の長崎兵助は、新田開発に貢献した父の跡を継ぎ、肝煎となりました。彼は有能でしたが、数々の事業を行うために藩の上役への運動費がかさみ、それが村人との対立の原因となりました。

長崎家からは、後に優れた農業指導者となった長崎七左衛門が輩出されています。また、安藤昌益の伯母が長崎兵助の妻であった可能性も指摘されており、安藤昌益に何らかの影響を与えたのではないかと考えられています。

五義民事件は、重税に苦しむ農民たちの悲劇であると同時に、支配体制に対する抵抗の象徴として、今も語り継がれています。

参考文献
『鷹巣町誌　第3巻』1989年、 鷹巣町史編纂委員会
『あきた』 1969年、碑の周辺(4)
* 佐藤貞夫『五義民 坊沢村百姓一揆の考察』よねしろ書房、1980年

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