井上剛宏

井上剛宏氏は、1946年に京都で誕生した日本の著名な造園家・作庭家です。京都において長い歴史を持つ造園家系「植芳」の二十代目長男として生まれ、幼少期から日本の伝統的な庭園文化に触れる環境で育ちました。

学問の道に進み、1965年に東京農業大学農学部造園学科へ進学。大学では造園学の大家である江山正美氏に師事し、造園の理論と技術を深く学びました。同期には後に造園界で活躍する進士五十八氏や涌井史郎氏がおり、切磋琢磨する日々を送りました。1969年に大学を卒業後、家業である植芳造園に入社し、本格的に作庭家としてのキャリアをスタートさせます。

初期の活動としては、1972年には旧通産省を通じて京都府造園協同組合に依頼された、ドイツで開催された世界園芸博覧会（IGA’73）への出品庭園作庭団に参加。これにより、国際的な舞台での経験を積みました。その後、植芳造園は株式会社化され、専務取締役を経て1994年には代表取締役に就任。伝統を守りつつも、現代のニーズに合わせた経営と作庭活動を展開していきます。

井上氏の業績は多岐にわたります。作庭活動は日本全国はもとより、海外にも及び、数多くの日本庭園を制作してきました。特に、京都迎賓館庭園（共同制作）や梅小路公園 朱雀の庭（施工）、佐川美術館庭園などが知られています。これらの作品を通じて、日本の風土や文化に根差した独自の景観美を表現し、高い評価を得ています。

その功績は多くの賞によって称えられています。1984年には建設大臣最優秀賞を受賞したほか、1995年には東京農大造園大賞、同じく1995年には第11回都市公園コンクール建設大臣賞を受賞。さらに2002年には国土交通大臣賞、そして2004年には長年の功績が認められ、黄綬褒章を受章するなど、輝かしい受賞歴を誇ります。

作庭活動の傍ら、井上氏は後進の指導や造園文化の普及にも尽力しています。東京農業大学や京都府立林業大学校で客員教授や特別教授を務めるほか、京都造形芸術大学や淡路景観園芸学校、札幌市立大学などで非常勤講師として教鞭をとりました。また、（社）日本造園学会の評議員、京都府造園協同組合の理事長、京都府造園建設業協会の会長などを歴任し、業界の発展にも貢献しました。講演や作庭解説、評論活動も積極的に行い、日本庭園の持つ深い価値や技術を広く伝える活動を続けています。

井上剛宏氏は、伝統に培われた確かな技術と現代的な感性を融合させ、国内外に美しい日本庭園を生み出し続ける作庭家です。教育者、評論家としても活動することで、日本の造園文化の継承と発展に不可欠な役割を果たしています。その作品と思想は、今後の造園界においても重要な指針となるでしょう。

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